7月25日その②
なんとなく部屋にいるのが心地悪くなってしまい、俺は外に出ることとした。出ないと告げた俺に対して、彼女は沈黙という卑怯な手に出たのだ。おかげさまで空気が凍って仕方なかった。特に何も予定がなかったのだが、バイトのない休みの日にお出かけしないのもイマイチである。
着ていたポロシャツは汗でびっしょり濡れてしまった。道行く中学生がアイスを買って自転車にまたがる中、俺は飲み物すら持たずにテクテクと歩いていた。生活水準は誰よりも下の方な自覚がある。小学生のお小遣いレベルよりも自由に使えるお金が少ない。いつまでこんな生活を続けなければいけないのだろう。外に出ても心地は悪いままだった。
せめてガリガリ君くらい買えるようになりたいなあ。ぼけっとしながら俺はJKカフェを目指していたその時だった。
見覚えのある黒服が、こちらに向かってやってきたのである。そう、それは……かつて乃愛の行方を追って家までやってきた、鷹翅の輩だった。
最初自分が目的とは思わなかった。確かに鷹翅とは無関係ではないものの、あの家からしたら小童も小童。箸にも棒にもかからないどころか、スプーンですら掬えない微小な存在である。そんな俺に用事なんて……しかも絶対!100%!まともな要件ではないから……俺は徐々に近づく彼らを見て、恐怖で慄いてしまった。
それでも心の奥底では、俺じゃないだろうと思っていたから、ずっと視線を切った。明後日の方を向いて、やっぱり神社へ向かおうかなあと行き先の変更まで考えた。しかしそんな俺の現実逃避は無為に終わり、俺は肩を叩かれた。
「大人しく連行されろ。出ないと痛い目にあうぞ」
誰がするかよと思いつつ、俺はガンを飛ばした。しかしながら脱出できない。黒服グラサンの握力に、俺の体躯が負けてしまったのだ。冗談に思えるかもしれないが、我が家のドアなんてボロボロに壊すんじゃないかというくらいのパワーがあった。
「抵抗するな!これでも街中だ。私達も穏便に行きたい」
「もう少し理由か動機を教えてくれなきゃ、そりゃ嫌なんですが……」
見た目マスターと同じくらいのその人は、少しため息を漏らしつつ言った。
「とある鷹翅一門の次期当主からの呼び出しだ。神妙な顔で赴け。みなしご」
「強引なこと……」
ここで相手から逃れて狭い路地を走り回り、追っ手を撒けるならカッコいいのだろう。しかし俺はただの一般人である。そのまま黒色の車に乗せられて、俺はその日しっかりと拉致られてしまったのであった。




