カラオケボックスで耳打ちをする
最近よく聞かれるようになった。
「采花ってさ、最近キャラ変わってない??」
私は決まってこう返す。
「まあ、青春だからね」
もはや春なんて妄言も言えなくなった私にしたら、最近はキャラ変の理由付けに悩んでいた。その日だって暑苦しくって、本当に暑苦しかった。
「流石に強引……だったんじゃない……かな?」
濱野さんはあわあわしながら小さな身体を小刻みに震わせていた。その姿はまるで3年前の私のようだった。
「むしろあいつにはあれくらいの方がいいんじゃね?多少強引に誘わないとテコでも動かなさそうだし」
衛藤くんはそう言ってpilotのボールペンをくるくると回していた。口の表情の不一致ぷりはまるで2年前の私のようだった。
「魅音はどう思うよ?」
「え?うーん……うーん……」
武田さんは常に周りを見ながら、最適な言葉探しをしている子だった。まんま去年の私だ。
「大丈夫、私の名前にかけてにーくらをここに引きずりこんでやる!」
こう高笑いする私は、いったい誰なんだろう。ステレオタイプにはめていた昔の私の方が、まだわかりやすかったなと視線を上に滑らしたくなる。空回りな女の子を演じて空回りになるなんて、どこまで私は不器用なんだ。
「こもにそう言われても説得力ねー」
「こもって、私は古森だっての!しゅんぺーいいかげんにしてよね!」
「わりぃわりぃ」
「それ流行らしたの沢木でしょ?ほんと許せない」
「いいと……思うけどなあ……可愛らしいし……」
「まあ濱野で当てはめたらしたら濱ちゃんだもんな。ダウンタウンかって」
「……ベイスターズ」
鈴木雅之を熱唱していた新河くんがここで話に加わってきた。
「次は?」
「キューソじゃん、絶対魅音だろ」
ひょいってマイクを投げる衛藤くんに、それを照れながらも嬉しそうに受け取る武田さん。こんな乙女な顔をしているのに、衛藤くんは何も気づかないのだろうか?もしくはそのふりをしているのかな?ぷいっとメロンソーダをすする彼に、罰ゲームで作ったゲテモノ烏龍茶をがぶ飲みする新田くん。私以外の4人は、来週に迫った茨田フェスティバルの有志バンドだ。そしてそこに、私の代わりに、新倉くんを入れるのが私の使命だ。使命なんて、勝手に思っているだけだけどね。
「……采花」
ポツリと聞こえたその声は、震えた子鹿のような濱野さんだった。古森さんじゃなくて?と思ったが、そこは意外な一面を見たってことにしておこう。
「なに?きょーこちゃん?」
あえて大きな声で、なんなら歌ってる武田さんにすら聞こえるほどの音量で私は返答した。それでも、それに負ける気概など微塵も感じさせない顔をして、濱野さんは尋ねてきた。
「貴女が舞台に立たなくていいの?」
予想外の問いに止まっていると、彼女は耳元でこうつぶやいた。
「やりたいことやりなよ、青春なんだし」




