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7月23日その⑤

「なんなん!?その顔」

「いや、嫌だなあって」


 俺は曇った顔を彼女に見せていた。乃愛ならさっさと断ると思っていたからだ。と言うかそうすべきだと思っていたから、俺は目をすううっと訝しく細めていた。


「何が嫌なん!?そんなに私のこと嫌いなん??」

「いやいやなんで同じ職場に来るんだよ。それに……」

「私には働くべきじゃないって??」


 今度は乃愛の方がむっとしたようだ。お互い毛糸の手袋をあみあみしながら、互いに視線を合わせずに会話していた。


「私やって立派な16歳やで!」

「もう17歳だろ?」

「え?私の誕生日知っとるんか??」

「一応な」


 俺は誕生日なんて、特に気にしていないけれども。


「まあそんな話は置いといて、私やってもう立派な大人なわけよ!それに他のみんなは大学ってステップを踏むから大学でバイトできるんかもやけど、私はそのまま公務員になるから、社会人経験的なものしときたいんよ」

「全然違う職種じゃねえか。どうせなら府庁とかにインターンシップすればいいのに」

「そんなん高校生向けにやってくれとるわけないやん!私やってあまちゃんに聞いとるんやけど、そんなとこ一切ないで」

「あまちゃん止めなかったのか?乃愛なら立身館くらい余裕で受かるだろ?」

「ぜーんぜん!全くなんとも思われとらんかったわ」


 まじかよ……こう言うところが自称進学校レベルの合格率しか残せていないうちの学校らしいところだと思った。うちは自称進学校ではない。何故なら自称ですら進学校を名乗っていないからだ。


「と、に、か、く!私には社会に出る経験というものをもう少ししてから公務員になってもええんちゃうかと、そう思っとるんや!!」

「んで?夏休みの間?うちで働くと」

「そういうこと!」

「……取り敢えず、真琴が死ぬほど嫌がると思うからケアをしておくんだな」


 俺は呆れつつ手先を動かしていた。これは9月の文化祭のフリーマーケットで出品予定のものだ。またも大量に売り出すと意気込んでいるのだ。


「なあ、友一」

「なに?」

「おもろい夏になりそうな、そんな気がせん?」


 まだ始まって2日目だというのに、こんな戯言を述べる彼女が、それでも嫌と思えない雰囲気を醸し出していた。薄々俺も感じている。徐々に徐々に、俺の周辺は変化を始めている。その流れについていけていない俺は、この夏で飲まれてしまうのだろうか。それとも押し止まるのだろうか。


 これがクレイジーフォーユーの季節かとかつての気取った乃愛を思い出しつつ、俺たちはのんびりと編み物を続けていたのだった。

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