表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
249/365

7月23日その③

 と、言うわけで本日は午後7時から2時間、研修バッチを胸につけつつ乃愛は働いていたのである。ちなみに時給は、店長の胸ポケットから支給されるらしい。短期バイトなんて雇用形態うちには存在しないのだが、やむを得ない事情というやつで勘弁してほしい。一応、法律は違反していないはずだ。


「まさか本当に来るとは思わなかったですけどね」


 なんで俺は呆れたふりをしていたが、実のところ彼女は俺のバイト先に来たい、一度でいいから見に行きたいと何度か言っていたので、あり得ない話ではなかった。昔なら()()()()()()()()()()()()()と思っていたのだが、今は不思議と嫌悪感がなくなっていた。まあ、日頃の自分を詮索するような質問を飛ばす(ハシラ)が心配なのだが……


「乃愛ちゃーん?聞きたいことがあるんだけどー?いいかなー?」

「何ですか?」


 乃愛は軽く顔を輝かせながら振り返った。俺にとっては苦痛でしかない仕事が、彼女には新鮮なイベントだったのだろう。さながら中学生の職場体験みたいだ。


「新倉くんって、クラスでどんな感じ?」

「あー、あんまり話さない?」

「まじかー、やっぱ隠キャかあ」

「ち、ちょっとー!やめてくださいよー」


 俺はわざとらしく制止した。無論こんなの、打ち合わせ通りの対応だ。


「新倉くんと噂になってる子とかいない?」


 なお食いついて話す柱本先輩。いい加減仕事しろと思いつつ俺は唐揚げを揚げていた。揚げ物も小学生に大量にとられたせいで、限度を超えた品薄状態だった。


「いやーわからないですね」

「因みにどうしてこのバイト先に来たの?」

「一度やってみたかったんです。うちの高校、バイト禁止なんですけど、こう言う飲食店で働いてみたいなあって」

「ほんと助かる。すまんなこんな場所に」


 乃愛はお手本のように返答していた。流石は我が高校の生徒会長である。いわゆる外行きの乃愛というものを作ったのは、古村家での日々、日常なんだろうなあとしみじみ感じていた。


 ドアが開いた。チャリーンと音がした。いらっしゃいませー!と言おうとしたが、そこに入ってきたのは樫田さんだった。裏口からではなく、表から入るのがこの店のルールだ。


「お疲れ様でーす」


 いつも通り表情変えずに入ってくる樫田さん。


「あー樫田くん!この子、今日ヘルプに来てもらってるんだー!華の女子高生だよー?どう!?どう!?」

「そうっすか。まあ塚原さんでその辺見飽きて……」


 樫田さんは乃愛と目を合わせた。その時間は、1秒くらいだったと思う。どちらも、どこか動揺した顔をしているような、そんな気がした。商品発注のため二階へ向かおうとしていた店長と、能天気な柱本先輩は見落としていたようだけれど。


 俺は、決して見逃さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ