7月23日その①
夏休みになると飲食店の客足は増加する。子供に聞かせても納得の理論だ。しかしながら、人件費は店舗経営に重くのしかかる。今年も我が店舗では増員なしで乗り切る予定だった。
「なんだよ夏休みって!!!私らはこれからテストだってのに!!!なんだよ夏休みって!!!」
そう叫んでいたのは柱本先輩だった。ようやく客足が落ち着き始めた8時半のことである。
「俺から言わせてみたら大学生とか1年中夏休みみたいなもんだけどな。まだ研究室に入り浸ってるゴリョとか福祉の課外活動に勤しんでる樫田はわかるが、お前遊んでるだけだろ」
店長はしばらく休みを取っていないらしく、無精髭を撫でつつ苦笑いしていた。
「何言ってるんですかー!今時の大学生はちゃんと授業出て真面目に勉学に励んでるんですよーほら、出欠とか電子記録で残りますし」
「それでもタッチしてソッコー帰るやつですよね?もしくは友人に学生証貸すか」
「げ!!!新倉くんなんでそんな大学生特有の裏技知ってんの?」
「自分で自慢してたじゃないですか……だから5限目切ってバイト出れてるんだって」
俺は呆れつつ、洗い場のフォローをしていた。
「ゆーいち、これどこに置いたらいい?」
「あーそれ奥から二番目の棚の左っ側」
「夏休みなんて学生の特権。社会人になったら2連休すら夏休みに思えるからな」
「店長それは流石に社畜すぎません?私の父親公務員ですけど、土日死ぬほどのんびりしてますよ?毎週夏休みですよ?」
「公務員はその分大学でも勉強して試験を受けた上で面接にも通っているからな。苦労を先取りしてただけだ」
「じゃあ苦労を後取りしている店長は……」
「お前も俺と同じ目にあうぞ。いや、絶対そうだ」
「なー!!!」
俺はすっからかんになった冷凍庫を見て愕然としていた。
「んー?どうしたゆーいち?」
「食材が跡形もなく消えてる……店長もう卵とじすら作れないんですけどー?」
「は!?!?あんなの卵さえあればなんとかなるだろ?」
「卵がないっすねえ。夜に入荷するまで待たなきゃいけないやつですねえ。卵焼き用の卵黄で作りますか?」
「それはやばいなwwwもう店じまいしたいレベルだ」
「そうしましょうよ!!休みにしましょうよ!!!もう今日は十分売れたでしょ?」
この後夜まで仕事のある柱本先輩は早期閉店を希望しているようだったが、店長はにっこり笑って拒否した。
「まあ麺類と油物はまだまだ余裕があるし、何よりご飯がある」
「ほとんどうどん屋っすねww」
「このお店を丸亀製麺にする気ですか!?」
「儲かりゃなんでもいいだろ……」
「ありがとうございましたー!」
お客さんが帰っていたのに、先に反応されてしまった。いつもは長く垂らしていた黒髪を、キュキュッとまとめてバンダナに隠していた。
「にしても……」
店長は顎をさすりつつ、洗浄済みの食器を取りに来た俺に向けて話しかけてきた。
「ありがとうな。急な助っ人を連れてきてくれて」
助っ人、それは勿論、今うちの制服を着て働いている古村乃愛のことである。




