7月22日その④
話の要点を雑破にまとめるとこうである。
とあるバンドが、夏祭りのイベントにでることになった。そのバンドのメンバーは、衛藤と武田と濱野と6組の高橋と鈴木の5人である。軽音部でもイチオシのロックバンドだと言われていた気がする。しかし、6組がその日映画の撮影の為太秦まで行くらしく、そこで主役級の役をもらっている2人が出られなくなったのだという。あ、映画の撮影というのはこの2人が超有名役者というわけではなく、ただの文化祭の出し物である。しかし撮影を休むわけにはいかないので、2人の代役が必要になったのだと。ここまでわかるのに30分は優に経過した。
その欠員補充のため、代わりの人を探していた所、最初に目をつけたのは古森だったのだ。しかし彼女のレベルでは、当バンドのキーボードとして十分な力を持ち合わせていなかったらしい。そして合意の上で俺を誘うことにした。ここまでわかるのにも30分を経過した。これが現代人のコミュ力不足かと嘆きつつ、俺は一つため息を入れた。
「というかギターはどうすんの?」
「ギターは魅音がやるんだって!ボーカルと兼任で」
器用だなあと思いつつ、俺は心無さげにへーと相槌を打った。電話主は代わりに代わり、今は再び古森に戻ってきていた。
「あと余ってるのはキーボードだけなんだけどなあー!キーボードさえ埋まったら終わりなんだけどなあー!別に今すぐオッケーって言わないけどさー!今からこっちのカラオケ来てくれたら、色々お話ししてあげれるのになー!」
謎の語尾をつけつつ古森が圧をかけてきていた。
「古森……どこまで俺にピアノを弾かせたいんだ?」
「弾かせたいんじゃない!私が弾いている音を聞きたいそれだけ!!わかる?」
「一緒じゃねえか」
俺は呆れつつ彼女のキンキン声に辟易としていた。
「いいじゃーん!バラフェスでよーよー!ピアノ弾けよー」
電話の奥で、武田が無理に誘わないでと止めようとしている声が聞こえていた。本当にこの古森という女は勝手である。こちらの事情というものをもっとちゃんと理解して……
少しだけ脳裏によぎった。古森って、もしかして鷹翅家の一門なんじゃないか?
鷹翅の分家はそれぞれ古から一字とって名字として名乗っている。そしてその中に古森ってのも、あったような気がする。
いやしかし、別に古いとついているからといって、全てが全て鷹翅関係者というのは早計である。勿論のことながら、全く無関係な家が大半である。もしかして彼女がその一門で、俺の出自を知っていて、なお塚原みたくお節介を焼いているのではないかと思考したが、流石に考えすぎか。
今勉強している乃愛に聞いたら、わかるのかもしれないが。しかしシャーペンを回しつつ黙々と勉強を続ける彼女に、それを尋ねる勇気など持ち合わせていなかった。
「まあ善処します」
「それ絶対こんやつ!私知ってる!絶対こんやつ!」
俺は呆れた声を上げつつ電話を切ったのだった。




