7月22日その③
その日はそのまま、少し落ち込んだテンションで勉強をして日々を送る予定だった。とある男達からの連絡が入るまでは、2人でまったりと夏を満喫していた。
「ゆーいちー!携帯鳴っとるー!」
昼ごはん代わりに食塩水を飲んだ我々2人は、青チャートに苦戦しながらシャーペンを動かしていた。そんな中、俺は携帯を取って外に出た。差出人は古森だった。
「はいもしもし…」
「あーにいくらー!にいくらー!ピアノ弾け」
「……電話切るな」
俺はそう言って黙って電話を切ってしまった。そして部屋に戻ってきた。
「誰から?」
乃愛はシャー芯を補充しつつ尋ねてきた。
「古森」
「なんて?」
「ピアノ弾いてほしいんだって。とりあえず電話切った」
「もうちょい要件聞きぃやww」
そう突っ込まれているとまた電話がかかってきた。どうせ古森だろうと思ったが、よく見たら衛藤だった。
「はいもしもし」
「あー新倉、明日空いてる?」
「バイトだな」
「そうかー。今日は?」
「今日はなんもない」
「んじゃ、カラオケ」
「は?」
「カラオケこい」
衛藤らしい短い言葉の羅列に、俺は少し動揺していた。説明不足甚だしい。そして背後で電話変わって!とうるさく喚く声も聞こえてきた。
「話が全く見えない……」
「ピアノ!ピアノ弾く打ち合わせしよ!」
プチ、ブーブーブー
あっ!いかんいかん古森の声が聞こえてきたから反射的に電話を切ってしまった。衛藤にすまないことをしたと思ったが別にあいつなら良いやとも思ってしまった。
「ゆーいち、人気者やなあ」
乃愛はそんな嫌味か皮肉かわからない言葉で俺を出迎えた。
「なんかカラオケ来いって」
「采花ちゃんが?」
「衛藤が」
「ほう」
「でも近くに古森もいたっぽい。なんか罠な気がするから今日は引きこもって宿題する」
「や、まあ出かけてもええと……」
そしてまたバイブ音が鳴り響いた。今度の電話主は、意外や意外濱野京子だった。ほとんど話したことない相手からの電話にびびりつつ、しかし少し斜めに見て電話に出た。濱野武田衞藤って、軽音部でよく一緒に居たからだ。
「はいもしもし」
「あ、新倉くん?ごめんね……立て続けに……」
「いや、大丈夫。要件は?」
「えっとね……うんとね……」
後ろで話し声が聞こえてきた。やはり、古森と衛藤が近くにいるのだろう。どうする?何話す?みたいな作戦会議がバッチリマイクに集音されていた。
「新倉くんに……頼みが……あるんだけどさ」
「うん」
「茨田市の……夏祭りあるじゃん?」
「あー今月末にある」
「そこでさ…………私らと……バンドしない?」




