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7月22日その①

 その日俺は珍しくバイトのなかったので、汗まみれになった布団を洗濯していた。本日の気温は35度。絶好の布団叩き日和である。扇風機の前から一歩も動かない乃愛(のあ)を尻目に、俺はベランダと言う名の25センチくらいしかないスペースに足を踏み入れた。26.5の自分の足だと、自然と爪先立ちになる必要があった。あまり言いたくないが不満である。


 布団をかけて、パンパンと叩いて、かしっとどでかい洗濯バサミで止めておく。ぐうううっと伸びをした時刻は午前11時。本日から待ちに待った夏休みである。天高く上げていた手を振り下ろすと、俺はボサッと口にした。


「学校がないと、暇だな」

「そりゃ部活しとらんあんたは、夏休み暇やろうよ。だから言っとるやん部活やろって」

「最近水泳部をサボり気味な古村さんに言われたくねえよ」

「サボっとるんやなくて、生徒会と受験勉強のためにそうなっとるんや。ちゃんと週に2回は顔出しとるんやから許してくれとるよ?みんな」


 弱小部活で良かったと、ぽろりとこぼしたこともあった彼女は、背後に扇風機をガンガン回しつつ昨日出た学校の宿題に取り組んでいた。数学の有名参考書、範囲は一学期習った単元全て。シンプル過ぎて笑ってしまいそうになる。答えを写して提出するだけでも一苦労だ。


「ちゃんと全部解くんだな」

「当たり前やん。一回考えて、分からんかって答え写すんならまだわかるけど、ただ答え写すんやったら写経と同じやろ?私ら修行僧やないんやから」

「俺にとって数学は修行だけどな。いやマジで」

「友一はしやんの?」

「何を?」

「宿題」


 乃愛は頬杖をつく左肘の近くに置かれた赤ペンに持ち替えつつ、俺に尋ねてきた。


「まあ今日暇だし、やろっかなあ。そもそも全部で何があったっけ??」

「覚えとらんのかい!」


 軽いツッコミを背中で受けつつ、俺はカバンの中から紙を取り出した。各科目の宿題一覧が載っているものだ。


「現代文はいつもの自由作文」

「何書こっかなあ」

「古文は古文単語と古典の感想文」

「そっちで感想文あるから自由作文で読書感想文書く気なくなるねんなあ」

「数学は青チャー、英語は英単語と英文法の実践問題に渡された長文の参考書全問」

「そして英作200文字5本。テーマは夏の思い出。英数はなかなかにハードやな」

「そのかわり理科は2学期の範囲を事前にノートにまとめるだけ」

「え?生物そんなんなん??物理めっちゃ色々出てんけど」

「マジか理系行かなくて良かった。そして社会は両方なくて、他には……」


 少しだけ、間が空いた。それを訝しげに思った乃愛が、わざわざ視線を外して尋ねてきた。


「ん?どうしたん?後あったの家庭科のんくらいちゃう?」

「や、確かに施設選んでバリアフリーの改善箇所レポートにする宿題も結構めんどくさいと思うけど、俺総合の宿題完全に忘れてた」

「え?なにそれ??そんなんかいとった!?」

「ほら、ここに小さく」


 プリントの1番下の下、そこにはこう書かれていた。


『総合では以下のテーマについて夏休み明けに発表を行うので準備しておくこと。なお班分けは1学期のままとする』


 そして各班毎に割り振りがあって、我が班のテーマはこれだった。


 〈神戸の魅力について〉

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