その日のその後、古村乃愛
Neither Norという熟語がある。
Neither A nor Bという形で使い、意味は『AでもBでもない』だ。
そんなことはわかっていると言われてしまいそうだ。中学生が習うような英熟語だから。
それでも
夜中の部屋で
隣に眠る君を見ていると
不意にこの言葉が浮かんできた。
夜中徘徊する癖なんてなかったし、寝付きはいい方だと自覚していたのに、その日はいつまでも寝付けなかった。
寝付けないまま、友一の顔を見て夜を明かしていた。
暗闇に映る君の寝顔は、実年齢よりも大人びて見えた。
そりゃそうだ、いつまでも小学生じゃないのだから。
気にするそぶりのない耳元のにきび
こけてきた頬
少しクマの入った目元
隣に寝ているのは、男の子だ。
そりゃそうだろと馬鹿にされるかもしれないが、そんなことすら認識できないほど、私と君の関係はぐっちゃぐちゃになっていた。
まさにNeither nor……友人でも、恋人でもない、名前のない関係だ
それはとっても心地悪くて
たまにとっても都合が良くて
ネームレスな繋がりに救われたりするけれど
やっぱり私には耐えられなかった。
この関係に、名前などない。
この関係に、名前などつけられない。
多分、これは戦いだ。
名前のない関係を、名前のある関係にする戦いだ
ここで君にまたがったって、君は私のことなんて見てくれない。
君が好きなのは私じゃない。
君が心の底から大切に思っているのは、隣にいる私じゃない。
わがままで
横暴で
まるでこの世の全てが自分のために動いていると勘違いした
そんな昔の私だ。
あれから髪も伸びた。
胸だって膨らんだ。
中身も結構温和になったと思う。
もう君の中では、別物として捉えているのだろう。
私はもうあの頃には戻れない。
だって、滑稽にもほどがあるでしょ?
もう威を借る虎は、私を捨ててしまったというのに。
内も外も変わってしまった私に、フリでもあの頃に戻ることなんてできない。
なら、答えは一つだ。
今の私を好きになってもらうだけだ。
地に堕ちたマリーアントワネットでも、モーツァルトを魅了できる。
そう信じている。
戦い始めて数ヶ月、戦況は決して良いとは言えない。
それでも私は諦めない。
これは、とある醜く滑稽な落第少女の物語だ。
自業自得の名前のない関係に、自らツケを払う女の子の話だ。
誰がこんなお話、読みたがるんだろうな。
都合の良い戯言を並べたら、馬鹿馬鹿しくなって少しだけ眠気が襲ってきた。
私はすっと、友一の隣に手を置いた。
触れないで、手を置いただけ
そのまま、彼の方を向いて目を閉じたのだった。




