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その日のその後、新倉友一

 目の前の少女が何か隠しているなんて、わずか17年弱しか生きていない俺にすら手に取るほどわかった。最初こそはそれを追及していたが、徐々にそれすら面倒になって来た。


「何回も言っとる通りな、真琴ちゃんが勉強教えて欲しいって言って来てな、3人で教えとってん。ちかちゃんがおったんは、たまたま隣におったからでな!何でうちの家やったかって言ったらな、ほら真琴ちゃんの家散髪屋やん?お客さんの声がうるさくて集中できんって。え?マクドとかでやったら良かったんちゃうかって?いやいやそれやったら問題解決しとらんやん。うるさいし」


 こんな言い訳にもならないことに終始していた。


「それにほら、私の部屋やって言って入れたから大丈夫!!理由?親が海外出張とか言っといたから」

「漫画かよ」

「まあ虚構(フィクション)やしな」


 俺は乃愛があまりにもそうやった怪しさ満点のことしか言わないので、ついに追及を諦めてしまった。今思ったらバイト前にカバン置いてたから、近藤(ちかふじ)辺りからツッコミが入らなかったのか心配になった。またボロいカバンに変えようかなあ。ストラップも変えたほうがいいかなあ。


「にしてもあれだな、今日は疲れた」

「そらそやろ。午前中はテスト返し、午後は球技大会、それに夜はバイトやろ?ええから早く休憩しよるんやで」

「そっちもだろ?球技大会の運営もやってたんだし……もう今日は早く寝ようぜ。明日も明日でカラオケ大会があるんだろ?」

「友一が()んやつな」

「仕方ないだろ?バイト休み取れなかったんだから」


 俺は一服するかのようにふううと息を吐いた。だめだ、思っていたより体が悲鳴をあげていた。早く寝ろと脳みそに命令していた。あくびも溢れ始めていた。


「んじゃ、歯磨きして寝るわ」


 俺はスッと立って、シンクに端に立てかけてある青色の歯ブラシを手に取った。隣のピンク色が乃愛のものである。というかこれが置きっ放しだとしたら、2人には少なくとも男の匂いは察知されてそうだな。眠たい頭ではそうぼんやりと思うところで思考が止まってしまった。


「あ、私も寝るー!」

「ほい」


 俺はもう片方の歯ブラシを取って渡した。


「お、サンキュー!」


 歯磨き粉は試供品のものだ。一応、ちゃんとしたメーカーのものである。ドケチな2人も、自身の健康にはお金を惜しまないのだ。


 2人並んで、シンクにもたれかかって歯を磨いた。口が封じられたから、無言の時間が続いた。お互い目を合わせなかった。でも同じ方向を見ていた。網戸から覗く星々。こんな街中だと見えるはずもないのに、何となく今日は見える気がした。


 お互い同時にぺっと白濁液を吐き出して、お互い同時に口をゆすいだ。ガラガラペッと吐き出すと、申し合わせもなく就寝準備が始まる。俺が卓袱台を片付け、乃愛が押入れから布団を取り出すのだ。


 2人同時に布団に入った。電気を消す直前、呻くように彼女は言った。


「明日からも、頑張ろうね」


 もう脳が稼動停止していた俺には、黙って頷くしかなかったのだった。

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