7月13日その②
部屋に入ろうと思って階段を登り始めた俺に対して、ドアノブを手にする前から乃愛が顔を出してきた。やたらと焦っている表情で、額にはうっすら汗があったのだが、それはこの季節の気温のせいかもしれない。とにかくいつになく真剣な表情でこちらを見てきていた。その割に服はルーズなジャージだった。
「あーただいまー!どうしたのお迎えなんて……」
「友一!シャワー浴びたない??」
突然の申し立てに、俺は少し仰け反ってしまった。まだ階段を登りきってすぐだったから、もう少し後ろに下がったら転げ落ちてしまうところだった。
「お風呂にする?シャワーにする?それとも……bathroom!?」
「全部同じじゃねーか!!いや確かに汗かいててシャワー浴びたい気分だけど、お腹もすい……」
「それじゃあシャワー浴びてき!!めちゃくちゃスッキリして気持ちいいと思うで!!ほら、あんた今日球技大会しとったやん!!いや私もやけど。でもめっちゃ洗い流せていい感じになると思うで」
どうやら彼女は、どうしても俺をシャワーへと行かせたいようだ。俺は無粋であることを理解しつつ、形式的にこう提案した。
「おっけーわかった。んじゃあとりあえずカバンを置かせてくれ。そして……」
「や、それ持って入っとくわ!!いつもんとこに置いてたらええんやんな??」
そう言って乃愛は半ばぶんどるように俺の鞄を奪っていった。いつものところというか、そんなに置き場を決めているんけではないのだが……
「マジでサンキュー!んじゃ、着替え持ってシャワー行くとする……」
「着替え持ってきとうから、ほら入りに行き!!こんな感じでええ??」
そう言って乃愛は俺に服を押し付けてきた。よく着用している黒色のadidasのズボンと、その辺の古着屋で買ったダボダボの青いTシャツ、それに黒色に赤色のラインが入ったボクサーパンツに、児童施設の不用品を回収して手に入れたポムポムプリンの黄色いバスタオル。いつも俺がお風呂に行く際持って行っているものだ。
「なんで今日こんなに準備がいいんだよ」
「そりゃ、いい事あったからやって。ほら、球技大会うまいこといったやん?」
「いやそうだけど……んじゃ水飲んだらシャワー浴びに……」
バタン!!!とドアが閉まったかと思ったら、すぐにガン!!っと開いた。乃愛が、コップの中に並々と水を入れてきていた。
「ほら、持ってきとるから飲み飲み!!」
「いや流石に準備し過ぎじゃ……」
そう言いつつ一度水を飲んで、そのコップを渡し、俺はシャワーを浴びることにした。結局俺は、バイト帰りに一度も部屋へと帰還しなかったのである。




