核心⑤
「クソみたいな惚気話。反吐がでる」
真琴ちゃんはそう吐き捨てて、教科書を広げていた。もう10ページ以上進んでいた。私は鍋を振りつつ、彼との話を語り終えた。少しだけおこげができてしまったが、ご愛嬌だと思って皿に盛った。
「良かったら食べてく?私特製チャーハン」
「あー食べたい!食べたい!」
「毒吐いた真琴ちゃんはなしね」
「は?私わざわざここに来たのに飯の一つも出さないつもり?」
そんな冗談を言いつつ私は3分の1ずつチャーハンを振る舞った。一人前を分けたからラーメンについてくる小盛りチャーハンと同じくらい少ない量になってしまった。しかしだからと言って友一の量を減らすわけにはいかない。
「あれ?そんな要らないよ。いいの?」
「あんた、もしかして少食?」
「いや、そういう訳ではないんだけどね。まあ私は、お腹空いたら冷蔵庫にあるもの適当に食べるから。遠慮しないで食べてね」
実はお腹全然空いてないとか、言いたくても言えない。色んな感情が入り混じって、喉も通らないほど疲弊しているなんて、悟られてはいけない。何でって?私が恥ずかしいからだ。自明な理由であろう。
「んじゃ、遠慮せずいただきます」
ちかちゃんは手を合わせてパクッと食べた。そういや今日は球技大会だったな。そりゃお腹だって空いているはず……なのに、私はこの1/3人前のチャーハンすらお腹に入るか不明だった。
「あーもう!疲れたあ。勉強ってほんと嫌い」
「の割に結構頑張ってたじゃん。隣で見てて、頑張ってるなあって思ったよ」
「そりゃ、高校出ないと美容師の資格取れないからね。テスト前はいつもこんなもんよ」
「え?真琴ちゃんって、美容師目指してるの?」
「目指してるってか、何なきゃダメなの。私は理髪店の1人娘なんだから」
真琴ちゃんは少しだけ照れながら答えた。
「すごーい!」
「いや凄くないから。養子だし」
「鷹翅出身だもんね。真琴ちゃんも。だから未だに塚原って慣れないよ。新原のイメージが強くて」
「それは昔の友達によく言われる。鷹翅出たの中学過ぎてからだから」
あんな毒を吐いていたのに、真琴ちゃんは少し遠慮しつつチャーハンを食べていた。
「それじゃあ次は、真琴ちゃんの過去を話していこうか」
「は?私の話は別にいいでしょ!?」
「いやー私聴きたいなあ。真琴ちゃんの話も聞きたいなあー」
「ちょっとあんたまで何言い始めてんの!?」
こうして私達は、のんびり駄弁り始めた。そして3人とも、ここに新倉友一が帰ってくることを、すっかり失念していたのであった。さらに言うならば、球技大会と慣れない勉強で、3人とも身体の底から疲弊していることもまた、すっぽり抜け落ちていたのだった。




