昔の話⑤-5
「ほら、こんなプレハブのような家に住まなくても、めちゃくちゃ広い部屋を与えてやる!!欲しいものだったらなんでも買ってやる!!進学だって、就職だって余裕だ!そうだろう?こんな幸せなことはないだろう??なあ??」
その言葉に、友一はこくこくと頷いていた。同意するのか。反論するのかと思っていたが。
「だってよ、乃愛」
むしろ肯定するような態度をとっていた。しかしそれらは、私にとって魅力的な条件とはならなかった。
「いいよそんなの。あんな家に帰るくらいだったら、どっかでのたれ死んだほうがマシよ。私は、もう誰にも縛られないで生きていきたいから」
君と生きていきたいなんて言えるほど、私は素直な少女ではない。
「そっか」
友一は、どこまでも表情が読めない人だ。
「こんなところにいて幸せになれない、そんなこと君だってわかっているだろう?こっちに来たら、何でも叶えられる。こんな場所と違って、幸せになれる。こんなこと、子供が考えたってわかる法則だ……」
「勝手に人の幸せ語ってんじゃねえよ」
静かに放った一言は、周りを黙らせるには十分だった。
「ここだと幸せを掴めない??ふざけんじゃねえよ。少なくとも、俺は幸せだ。確かに何もない家だ。金もねえし、綺麗な部屋もねえ。ベットもねえしテレビもねえ。個別のトイレも風呂もねえし、娯楽品だって一つもねえ。でもな。俺は幸せだ!!あー幸せだ!!毎日起きて、飯を食べて、学校行って、バイト行って寝る。そんな普通の生活を送れるだけで、俺は最高に幸せなんだよ!|わかってんのか?そんなこともわからねえんだったら、わからねえ同士絡んでいやがれ!!こんな負け組のところに来るんじゃねえよ!!」
友一は、泣きそうになっていた。目には潤いで満ちていた。私も彼もわかっていた。幸せは物質的充足が大きく左右することも。そしてそれは普遍的な考え方であることも。
「……いいから帰ってくれ。頼むから」
そう言って下を向いた彼は、命乞いをするように訴えていた。不意に視線を合わせた私らは、にこって笑った。何も言えずに、にこって笑ってしまったのだった




