表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/365

昔の話⑤-5

「ほら、こんなプレハブのような家に住まなくても、めちゃくちゃ広い部屋を与えてやる!!欲しいものだったらなんでも買ってやる!!進学だって、就職だって余裕だ!そうだろう?こんな幸せなことはないだろう??なあ??」


 その言葉に、友一はこくこくと頷いていた。同意するのか。反論するのかと思っていたが。


「だってよ、乃愛」


 むしろ肯定するような態度をとっていた。しかしそれらは、私にとって魅力的な条件とはならなかった。


「いいよそんなの。あんな家に帰るくらいだったら、どっかでのたれ死んだほうがマシよ。私は、もう誰にも縛られないで生きていきたいから」


 君と生きていきたいなんて言えるほど、私は素直な少女ではない。


「そっか」


 友一は、どこまでも表情が読めない人だ。


「こんなところにいて幸せになれない、そんなこと君だってわかっているだろう?こっちに来たら、何でも叶えられる。こんな場所と違って、幸せになれる。こんなこと、子供が考えたってわかる法則だ……」

「勝手に人の幸せ語ってんじゃねえよ」


 静かに放った一言は、周りを黙らせるには十分だった。


「ここだと幸せを掴めない??ふざけんじゃねえよ。少なくとも、俺は幸せだ。確かに何もない家だ。金もねえし、綺麗な部屋もねえ。ベットもねえしテレビもねえ。個別のトイレも風呂もねえし、娯楽品だって一つもねえ。でもな。()()()()()()()()()()()()()()毎日起きて、飯を食べて、学校行って、バイト行って寝る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()|わかってんのか?そんなこともわからねえんだったら、わからねえ同士絡んでいやがれ!!こんな負け組のところに来るんじゃねえよ!!」


 友一は、泣きそうになっていた。目には潤いで満ちていた。私も彼もわかっていた。幸せは物質的充足が大きく左右することも。そしてそれは普遍的な考え方であることも。


「……いいから帰ってくれ。頼むから」


 そう言って下を向いた彼は、命乞いをするように訴えていた。不意に視線を合わせた私らは、にこって笑った。何も言えずに、にこって笑ってしまったのだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ