昔の話⑤-4
外はいまだに騒がしかった。友一はじっとこちらを見ていた。
「あいつんとこ行ったら、どうなんの?」
私は笑いながら答えた。
「普通の暮らしはできんと思う。確実に」
まだ神戸の言葉が馴染んでいなかった私の態度は、無理しているとただただ訴えているような、そんな風に思えた。
「でもここも、普通の暮らしじゃない」
「それはそうかも」
「何にもないからな、ここには」
ドアをどんどんと叩く音がしていた。向こうはやたらと焦っている様子だった。まるで、時限式の爆弾でも仕掛けられているような。そんな慌てぶりだった。
「何も……なくない」
私は震えるように訴えた。
「君がいる」
そしてふと、目を逸らしてしまった。君がいたらそれでいいなんて、言えるほど私は彼と近くない。なのに、何故だろう。そんな言葉が口から出て来た。その時、私が私を見つめたその時、友一が突然叫んだ。
「うっせーんだよ!!人の家のドア叩くな壊れんだろ?ただでさえオンボロ住宅なんだからよ!!!」
ドアに背中を預け、もたれかかるように足を伸ばしたその姿のまま、これまで一度も聞いたことのないような大声を出していた。
「お前は無関係だろ!?なんだ!?ボーイフレンドなのか!?だとしたらやめておけ!!お前みたいな貧乏人には不釣り合いだからなあ」
ドアの向こうで次男坊が叫んでいたが、負けじと友一も応戦していた。
「無関係!?ざけんなここは俺ん家だ!!勝手に住居入ってくるなんざ、住居不法侵入だろ?」
「そういう話をしたいんじゃねーよ!!お前じゃ不釣り合いだっつってんだ!!少女匿うとか、いきがって……」
「そりゃあな。俺とこいつは、住んでいる世界が違う」
私は少しぐさっと来た。昔の言葉を思い出してしまった。
「でも、お前も不釣り合いだよ」
「はあ!?!?」
「やめときな。古村乃愛の好きなようにやらしたらいいじゃねえか。俺たちが出る幕じゃないだろ?釣り合ってんなら、逃げられねえっての」
さらにドアを叩く音が増していく。
「おい!!!古村の元令嬢!!!選べ!!俺に来るか、そこに留まるか…….」
「別に選ばなくていいさ。好きな時に好きないたらいい。俺はただ、軒先を貸してるだけだからな。行きたいなら今すぐ出て行っても……」
「嫌だ!!行きたくないね!」
私はベッと舌を出した。相手に見えてないなんて承知の上だ。
「つうわけで、そろそろ帰ってくんない?俺お風呂行きたいんだけど……」
「ほら、乃愛!!一体何が足りないんだ言ってみろ!!俺たちは、ここに無いものをたくさん用意できるぞ!!」
いまだに、次男坊は吠えていた。




