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昔の話⑤-3

 次男坊は邪悪に笑った。


「まったく、何をしてたんだいこんな所で。君は鷹翅の本家に入って、何一つ不自由のない生活を営めるって話だったのに、古森(ぶんけ)従姉妹(ぶんけ)とかそこの貧乏くさい男と一緒に歩いていて……」


 貧乏くさい、か。まだ前髪が目にかかるくらい長かった彼の姿は、そう捉えられても仕方がなかった。


「何が何一つ不自由のない生活よ。何一つ自由のない生活の間違いでしょ?あんたの最低な欲情を満たすために、なんでわざわざ行かなきゃいけないのよ」

「じゃあ、妻としては?」

「願い下げね。見境なく手を出した挙句その尻拭いで多くの人間を泣かせるクソ男なんて、たとえ金に目が眩んでも唾棄するわ」


 そう問答している時も、どうやって切り抜けるか必死に考えていた。しかし、住んでいる所がバレているのは結構致命的じゃないか?これからは朝学校に行く時も、もしかしたら待ち伏せを……


「何してんだお前。家、入んぞ」


 冷たくも暖かい声が聞こえた。隣を振り返ると、まるで何にも動じていない顔で友一が指差していた。その先には自転車の駐輪場があった。


「え?」


 と私が言ったのも束の間。彼は私の自転車のハンドルを駐輪場へと向けると、そのまま歩いて駐輪場へ歩を進めた。


「待てよ!!おいお前らこいつらを拉致し……」


 言い終わる瞬間だった。友一はがっと私の手を掴んだかと思ったら、自転車を黒スーツの男の1人にぶつけた。その男が少し怯んだ隙に、友一はその脇を一目散に突破。そのまま私の手を引いたままダッシュし始めた。


 階段をたんたんたんと登る。いつも不安定な階段が、余計にグラグラ揺れた気がした。


「何をしている!!追え!!追うんだ!!」


 そんな小物な言葉を聞きつつ、私らは部屋に入った。友一は即座に鍵を閉めた。そして扉に背を持たれて、ドアが開かないように力を込めていた。外はいまだにうるさかった。


「あ、ありがとう……」


 私はいろんなことが起きすぎて混乱して、感謝の言葉しか出てこなかった。友一は軽く首を縦に振ると、少し前髪を弄った。


「でさ、あいつなんなの?」

「鷹翅の次男坊。穀潰し。人間のクズ」

「ふーん。そりゃ大変な人にストーカーされてんな」


 友一は諦めたようにため息をついた。


「金持ちのボンボンにしては雑な人攫いだな。あんな簡単に部屋に入れると思わなかった」

「まあ私を捕まえるのは鷹翅本家の総意ではないからね。ほっておいたらいいんじゃないかって言われてる中、あいつだけ動いているからあんまり派手な真似はできないのよ。多分だけどね」


 私もため息をついた。しばらくの沈黙の後で、呟くように友一は言った。


「じゃ、ここからどうしようか?」

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