憧れ崇拝思い違い
告白する気なんて、さらさら考えなかった
ただ、彼女の近くで働けるだけ
それだけで良かったのだ
この半年間、それだけを思ってやってきた
未だに覚えている
同じタイミングで生徒会へ立候補の紙を出しに行った時のことを、何一つ忘れていない
今より少しだけ短い髪の毛
今より少しだけ良い肉つき
今と全く変わらない美しさ
見惚れてしまった
固まってしまった
この人の元で働きたいと、そう思ってしまった
我ながら、恥ずかしいことだと思う
これは恋じゃない
そんなおこがましいことを言えるほど、彼女の存在は軽くない
一種の崇拝だ
遠くから眺め
その美しさに恍惚し
その気高さに感嘆し
そしてそのひたむきさに拍手を送る
それだけで、僕は良いのだ
その気持ちは、この半年間で何一つとして変わっていない
今年、僕は会長と同じクラスになった
嬉しかった
より近くで、彼女を見ることができる
より近くで、彼女の魅力を伝えることができる
何度でも言おう、これは恋ではない
誰かのものになってほしくないなどと、声高に叫ぶつもりはない
彼女は僕のものだと主張する気もない
彼女と釣り合うことなんて……僕にはできない
だから決めたのだ。1番近くで、1番遠くから彼女を見続けようと
しかしその一方で、僕は思い違いをしていた
このまま、来年も会長がいるものだと
生徒会室に行けば会長がいる
僕のつまらない話にも笑顔を振りまいてくれる
そんな女神が、来年も居るのだと
生徒会さえ続けていれば、彼女に会えるのだと
金曜日のクラス委員決め
彼女の発したほんの小さな言葉を、僕は聞き逃さなかった
…私まだ、会長をやるかどうかわからないよ…
そんな言葉が漏れること自体、想定外だった
いくら配慮や謙遜の言葉でも、その可能性については考えていなかった
彼女は続けると思っていた
周りも続投だと決めかかっていた
だからこそ僕は驚いた
しかしそこから詳しく聞くことはできなかった
消え入りそうな小声は、クラスの喧騒に掻き消されたのだ
そして僕は、一抹の不安だけを抱えて休日に突入したのだった
その頃の僕は、まだ知らない
思い違いは、まだまだたくさんあったということを




