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昔の話④-7

「働きたい!!」

「だめだ!!水泳部やりたいって言ってただろ?部活やりながらバイトもしたら死ぬぞ?」

「私体力あるもん!それくらい余裕やもん!」

「そもそもうちの学校は原則バイト禁止だ。親の年収でひっかかんだろ?俺は親がいねえから特別扱いなんだよ」


 こんな会話を繰り広げたのは4月の終わり頃だ。私はバイトがしたかった。お金を稼いで、少しでも彼を楽にさせたかった。そう訴えると、友一は嫌そうな顔をしていた。


「俺は別にあんたがいてもいなくてもどっちでもいいからな。ただ飯がないんなら飯を与えるし、寝床がないんなら布団を半分差し出す。そんな心優しい青年なんだよ」

「自分で心優しいとかいうなや。いやありがたいけど」


 今の食卓とは違って、まだお互いがお互いに無遠慮だった。目もろくに合わせなかったし、茶碗も箸もそれぞれで用意してそれぞれで洗浄していた。この日も私はすでにご飯を終えており、自分のお皿だけ片して、洗い物をする彼を一切手伝っていなかった。


「にしてもあんた、バイト行ったらだいたいこんな時間に帰ってくんの?」

「あーそうだけど?本当は深夜働かせてほしいって言ってんだけど、法律違反らしくてだめらしい。法律ってやっぱりクソだ」

「いやそれは妥当やろ……もう10時前やで」

「部活の方が拘束時間長いし」

「部活は拘束時間やなくて楽しい課外活動やからな?本義的には」


 私は彼の背中に向けて話しかけていた。もうこの奇妙な共同生活も4ヶ月が経っていて、そろそろこの不安定な関係にも慣れが始まっていた。


「……うちの学校ではさ」

「うん」

「バイトしてる奴って、不良扱いだろ?」

「それは言い過ぎやと思うけどな」

「そんな扱いを受けるのは自分1人で十分だ」

「あんたを不良生徒やと思っとるやつは1人もおらんけどな」


 そして沈黙。もどかしいと思われるかもしれないが、これが私達のコミュニケーションなのだ。この頃の私達は、いや今もかもしれないが、心の奥底にある蟠った感情を吐き出そうとせず、ただ淡々と毎日を過ごしていたのだった。


 バイトの件も、気づいたら話題に上がらなくなった。気づいたら私は水泳部やクラスで友達を作り、部活して遊んで、勿論勉強もして、気がついたら生徒会長になっていて、生徒会長として学校をまとめあげ、先生と交渉して、イベントを成功させて……

 彼はその間、ただひたすらにバイトをしていた。お金を稼いで、稼いで、毎日を過ごしていた。お互いがお互いのことを触れないように、私達は1年間同じ屋根の下で生活していたのだった。

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