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昔の話④-5

「昔、あなたが出て行った時、あなたのご両親にこんなことを言われたのよ。『もしもこの子が自分の境遇について理解した時まで、絶対に見せないで欲しい』って」


 樫田と名乗ったその人は、孤児院の保母さんである。勤続年数は20年を超える。だから私も、この人にお世話されていた頃があるのだ。


「あなた、橋の下に捨てられていたことは知っているわよね?」


 施設の奥へと進んで行く。何回も何回も来たことがあったのに、立場が違えばこうも様相が変わるのかと感心していた。


「あなたはね、ただ捨てられていたんじゃないのよ。正直言って、どうしてこんなことをしたのか私にはわからない。でも、こんなものが入ってたのよ」


 倉庫に着いてもなお前へ進み続けていた。それはまるでジャングルの奥地へ臨んでいるかのようだった。


「えーっとね……あ、これ!」


 そう言って彼女が出して来たのは、変色した段ボール箱だった。それに埃が溜まって、鼻がムズムズとしてしまった。


「いや、中々にひどい汚れだね。でも中身は……大丈夫なはず!」

「もしかして、この段ボール箱に私は入っていたんですか?」

「そうよ。そのままに保存しているわ。そして、あなた以外に入っていたのは……これよ」


 段ボール箱を覗き込むと、数十枚に及ぶ写真が入っていた。見た目の老朽具合に比べると、加工でもしているのかと錯覚するほどの綺麗さだった。

 そしてそこに写っていたのは……赤色のポール?


「あーここじゃ見にくいわね。ホールに行きましょう!」


 そうして段ボール箱をかかえて持って行き、ホールで全部ひっくり返した。


「これ、ポートライナーですよね?」

「そしてこれは異人館。これは六甲山から見た神戸の夜景。すごいでしょ?」


 ……見入る私。なんでかはよくわからないけれど、涙が出そうになった。全くもって関わりのない街なのに、その街に行けば出会えそうな風景の数々が数珠のように連なっていて、まるでそれは……それは……


 故郷を、見ているようだった。

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