昔の話④-4
それからというものの、私達は一緒の部屋で暮らし始めた。家から追い出された少女と、施設から追い出された少年。その生活は摩訶不思議に思われるかもしれないが、その実は驚くほど波の立たない毎日だった。
一言で言うと不干渉。お互いが別々の方向を見ているような、そんな日々を送っていた。1つには高校受験を控えた2人だったから、勉強ばかりしていたと言うのもある。大晦日も元旦も、テレビなんてないこと部屋では紅白も駅伝も見ることはできなかった。私達は拾ってきたラジカセをバックサウンドにしながら勉強していた。特に私は内申点が期待できない状態だったから、尚更だった。
1度だけ私は、今の自分の境遇についてと、過去の自分の贖罪を述べたことがあった。確か年が変わる直前で、いつもなら行く年来る年を見ながらコタツへ潜り込んでいる頃だった。
その時にどんなスイッチが入っていたのかは忘れてしまった。しかし私は、
「私、本当は孤児だったの」
と唐突に告白し、その後もペラペラと話していた。もちろん視線は落として、ノートを見ながらの会話だった。
それなのに友一は、謝り始めた私に対して、
「別に謝ることないし」
と軽くあしらった。その上で、
「あんなのもう、小学生のおままごとみたいなもんだろ。いいって。いいって。あの頃の乃愛も、あの頃の自分も、もう遠い過去に消失したものだと思ってるから」
私はその言葉を噛み締めた。友一は吹っ切れたのだ。むしろ引きずっているのは、居心地が悪いのは、私の方だった。
学校が再開した時、私も友一も実家から最寄りの中学校ということになったため、少し通学時間がかかることになった。私は全く友人を作らなかった。たった3ヶ月、いや実質2ヶ月だ。仲良くなろうという方が難しい。私は休み時間も勉強して過ごして、極力人と関わらないように生きていた。
そして1月も下旬に差し掛かった頃、今日も今日とてボロボロの自転車でアパートへ帰ろうとしていた私に、呼び止めてきた人がいた。最初に名前を呼ばれた時には、心臓が止まるかと思った。鷹翅の奴らが、私の姿を発見して連れ去ろうとしたのかと思ったのだ。しかし声をかけてきたのは……昔見慣れた中年のおばちゃんだった。
「乃愛ちゃん、ちょっと時間あるかしら?」
まるで長年、この施設で育った子供のような馴れ馴れしさで、その人は私の手を引っ張ったのだった。




