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昔の話④-1

 公衆トイレの汚さに辟易とするのも、3日と経てば慣れて来ていた。人間が暮らすレベルじゃない砂場の城の中も、拾ってきた青色のブルーシートを引けば十分に寝所になった。私は何日も変えていない衣服に臭みを感じつつ、これからのことを考えていた。こんなことになるのなら、最初から児童養護施設に逃げ込めば良かった。それなら、三食と屋根は保証されていたというのに……これまでの私の所業を棚へと持ち上げる勇気が、私にはなかったのだ。そんな最低限の意地が、最低限以下の生活へと繋がったのだから、自業自得とでもいうべきだろうか。お金も住む家も何もかも捨てた大晦日3日前、日付が回るか否かの瀬戸際で私はブランコにまたがって空を見ていた。


 星は見えなかった。雲はなかったけれど、街灯が邪魔だった。月の光だけが圧倒的な存在感を発揮していた。遠くに光っているであろう何某の光に、私達は気づかなくなっていくのだろう。謎の感傷から、ふと私は視線を切ってしまった。


 その先に居たのは、かつて見た少年の成長した姿だった。


 どうしてこんなところにいるのだろう。そう尋ねたら、それはこちらのセリフだと言われかねないと思って黙ってしまった。右手にはちょっと小さいサイズのちゃぶ台を持っていた。それ、片手で持ってて重くないのだろうか。そんな余計なことを思ってしまった。


「何してんの?」


 少年はぶっきらぼうに聞いてきた。声が数段階低くなっていて、女子校出身の私からしたら少し怖くなってしまった。私は視線を逸らしつつ答えた。


「空を見てた」

「そっか」

「あんた、新倉友一……君よね?」

「そうだけど?()()()()()()()()


 それは全く不敵な笑みではなくて、おちょくった表情ではなく、心底の疑問といった雰囲気だった。私は呆れつつも答えた。正直に答えた。


古村乃愛(こむらのあ)

「そっか。あの砂場にブルーシート張ったのあんたか?」


 友一はぴしっと指をさしたその先に、私の居住スペースがあった。私は必死に目を合わせないようにしていた。


「まあいいや、そんなことより、俺は人手を欲しているんだ。古村」

「乃愛でいいよ。つうか他人のフリをしないで」

「呼び方はどちらでもいい。頼みたいことがあるんだけれどもいいか?」


 頼まれたいこと?と思って久々に視線を合わせたら、後ろにあった家電廃棄場に冷蔵庫があった。


「あの冷蔵庫、運ぶの手伝ってくれない?」

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