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昔の話②-9

 神様は時に残酷な現実を突きつける


 もしも才能が


 この世の才能が全て神様の配賦によって定められているとするなら


 私は全力で彼らを詰るであろう


 齢も11近く重ねたらわかることだ


 特に、私のように幼少の頃から様々な習い事をしてきたのなら、それは最もわかりやすい


 自分に特別な才能などないことを


 48インチの画角の向こうにいる人達にはなれない


 液晶に映し出されることなんてない


 わかってしまうからこそ、辛いのだ


 才能のあるものを間近で見てしまう


 しかも自分が


 喉から手が出るほど欲しがった才能を


 首を長くして待ち続けた人の前で


 余すことなく披露して激賞される


 そんなこと、耐えられるわけがなかった


 もしかしたら私は不真面目だったのかもしれない


 彼ほどピアノに向き合えていなかったのかもしれない


 目に見える向上すらなかったことすら彼のせいにする気は無い


 でもその才能は


 暴力的なほどに清々しくて


 圧倒的だった


「ねえねえ、どう?どんな感じ?」


 ジュノーム第3楽章を弾き終えて、虚空に向かって息を吐いた友一の顔に、達成感など何一つとしてなかった


 ただ、きらきら星を弾き終えた時と変わらず、いつも通り淡々とちんまく首を下げていた


 弥生さんの顔を見た


 詳しく聞かないでもわかった


 もうその顔は、才能の虜になっていた


「君、友一くん?ピアノ始めたのはいつ?」


 弥生さんは同じ目線になるよう屈んで話しかけた。友一は動揺しながら答えた。


「3ヶ月」

「3ヶ月!?!?!?3ヶ月でそれだけ弾けるようになるの!?」

「だから言ったでしょ?この子はね、才能の塊なの」


 彼女達が友一を囲んで褒め称える中、私は消え入るようにどこかへ行きたかった


 心の底で期待していたのだ


 弥生さんが、彼の才能を大したことないと断じるのを


 まあそこらの子供よりはうまいかな?くらいでお茶を濁してしまうのを


 しかし神様は残酷だ


 私が1番見たくなかった現実を


 私が1番望んでいた世界を


 こうして眼前に突きつけて来るのだから


 私は唇を噛み潰すしかなかったのだ


 負けず嫌いが悪い方に行ったのではないい


 プライドの高さが仇になったわけでもない


 住んでいる世界が違うと思っていた人間の下克上


 こんなにも恵まれた自分なのに、その一点だけどうしても恵まれていない不安感


 そしてその一点だけで全てをひっくり返す、サクセスストーリーの最中のような


 当時の友一の背中には、そういったものが感じられて仕方なかった


 だからここから、私は彼とまた距離を取ろうとすることになる


 勝手に盛り上がる大人2人をさし置き、私はそんな悲壮な決意をしていたのだった

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