閑話休題②
「因みにさ、何でいきなりピアノ弾き始めたの?」
私は素朴な疑問を2人にぶつけた。乃愛はちろっと真琴ちゃんの方を見た。真琴ちゃんは少し不敵に笑いながら答えた。
「いやまあ私だけど?なにその顔」
「真琴ちゃんのイチャイチャエピソードが聞けるのかなって」
「はあ!?!?んなもんないし!!!ただあれよ。授業成り立ってなかったから、近くにいたあいつに冗談で『音楽の授業なんだからピアノ弾いてもいいんじゃない?行って来なよ』って言ったら真に受けただけよ」
真琴ちゃんはがぶっと水を駆け込んだ。コップを乱雑に置くのかと思ったら、接着寸前で勢いを緩めて置いていた。
「それにしても、こんな昔から話し始めてて大丈夫なの?今何であんたが新倉友一と同棲しているかを説明するのに、全部過去を言う必要なんてマジでないじゃん。それとも……」
真琴ちゃんはじろっとこちらを見ていた。
「好きになった男のことは、全部知っておきたいとか、そんな乙女チックなこと考えてるの?」
!?!?結構な図星だった。私は口をつけていたお水をこぼさないように置くと、必死に弁明しようとしたが言葉が出てこなかった。
「………そうだけど?」
そして顔を真っ赤にしてこう指摘するに止まってしまった。顔面から火を噴くとはこう言うことを言うのだろう。最近彼に見習って本を読み始めたが、中々語彙は増えていかないみたいだ。
「素直だねえ!」
乃愛はそう言うと、私の頭を撫でて来た。
「ちょっ!!どうしたのいきなり…」
「いやあ可愛いこと言うからさあ。そりゃこの子、友一に影響されてジャズとか聴きはじめちゃうような、そんな女の子なんだからさ」
わしゃわしゃと髪を撫でられた。彼女の手が震えているのは、今日ずっとだ。これが仕事の疲労からくるものでないことくらい、頭の悪い私でも重々理解できた。
「……ねえ、真琴ちゃん」
「うん?」
「私らに、この子みたいな素直さがあれば、どんな世界に変わってたのかな?」
乃愛は私の赤色の髪の毛を触り続けながら、ため息のような言葉を繰り出した。
「私は関係ないけどな」
「へ?」
「あいつのこととか別にどうとも思ってないから。今日は勉強教えてもらいに来たんだし、あいつの話は私にとってついでよ、ついで。それ以上でもそれ以下でもないし。と言うか早く勉強教えなさいよ!全く……」
「……ごめんちかちゃん、私この子よりは素直だわ」
「な!!!なにお!!!!」
膨れた顔をする真琴ちゃんと、それを見る乃愛。まるで昔からの友人と話しているようだ。こんな彼女達は、おおよそひと月前まで口も聞きたくないほど嫌いあっていたという。いや正確には真琴ちゃんが一方的に嫌っていたのだが、一体なにがあったというのだろう。少し乾いた笑い声が木霊す部屋で、私はその真相を待っていたのだった。少しの恐れは、唇を噛んで我慢していたのだった。




