4月7日その④
「友一、あんたって……友達居るん?」
時刻は夜の9時半である。乃愛は水泳部の活動から帰ってきて先に2日目のうどんを完食しており、俺は今日の乃愛の弁当の中身を晩御飯として食べていた。弁当は何人かでまとめて作った方が楽だから、これからはこんな風に生姜焼きとポテトサラダをおかずにご飯を食べる晩飯が連投されるであろう。
「今のクラスにはまだいないな」
「あんたのちょっと後ろから見とったけど、何一つ周りとコミュニケーション取ろうとしとらんかったやん!あれは居とらんやのうて作る気無いやで」
乃愛は少し頬を膨らませつつそんな愚痴をこぼしていた。
「仕方ないだろ?1-5から来てる男子俺だけなんだから」
「まあそうやけど、そこは持ち前のコミュ力でなんとかしよるんやろ!」
「んなもん皆無だっての。いいんだよ俺は別に。それに昼ご飯はみんなで食べてただろ?」
「そら、男子ほぼ固まって食べとったからやろ?そこでもろくに話さんし…」
ガブガブと水を飲む乃愛。チビチビとポテサラを食す俺。
「まあ、慣れろ」
「何を!?」
「何をって、あんな感じの俺を、だよ」
「えーなんか違和感あるー!」
「別に無理してるわけでも無いさ。昔っから俺は、あんなもんよ。お陰様でいじめられたこともないし、人をいじめたこともない」
むーーーというジト目をする乃愛。不満な時や納得いかない時に彼女はよくこういう目をするのだ。
「何かご不満でも?」
「べーつにー?なーんもー?」
そして机に頬をおいて、彼女は呟いた。
「寂しくないん?」
寂しい、寂しいかあ…感じた記憶の薄い感情を飲み込むのに、少し時間がかかってしまった。その間に、乃愛も畳み掛けた。
「ほら、友一って部活もしとらんやん?委員会も今日手ぇ挙げんかったし。真面目に勉強してる様子もないし」
「そこはギルティだぞ乃愛。俺は真面目に授業も聞くし、平均点を刻むように取っていく男だぞ?」
「でもさ、難関大合格!とか目指してる子達ほどは全然しよらんし」
まあそれはそうだな。難関大どころか、今のところ大学進学すらあまり考えていない。
「なんか、学校行ってて楽しいんかなって」
「いや、まあ…それなりに楽しんでるぞ。うん。というかクラスメイトが面白くてな。昼ご飯の時とか笑っぱなしだっ…」
「嘘」
小さな一言。
「見てたけど、私のしょうもない話の時の方がもっと笑っとるよ」
囁く一言。
そんなことは……という言葉を飲み込んでしまった。まあ確かに、この家でぐだぐだと話している方が楽しいといえば楽しい。でもそれが、学校に行かなくていい理由になんてなるはずがない。
そして俺は確信していた。これは合図だ。何かって?乃愛が、何かについて悩んでいるサインだ。乃愛は悩み事がある時ほど他人につっかかる癖がある。本人はあまり自覚していないのだが。
「そういやさ、乃愛。生徒会続けんの?」
反応がすぐに返ってこなかった。どうやらビンゴのようだった。




