4月3日その①
これは……大ごとだ!!
バイト終わりの午後9時過ぎ、俺は送られてきた画像を見るや否や急ぎ帰宅の準備を始めた。いつも途中まで一緒に帰る同僚を見捨てて自転車にまたがり、全速力でペダルを漕いだ。お疲れ様ですと声をかけたものの直ぐに視線は前へ向いていた。バイト先から自宅まではそんなに距離はない。信号を超えて左にいけば我が自宅が顔を出す。俺はそれまで、脇目も振らずに爆走した。
古ぼけたアパートの一室が我が家だ。雨が強くなれば雨漏りを心配し、風が強くなればトタン屋根の崩壊を気にしなければならない。高層マンションの乱立が進んでいるこの槻山という街において、それはあまりにもオンボロで古臭かった。恐らく大きな道に沿って建てられていたなら、道幅整理などで撤去間違いなしだっただろう。
みしみしと鳴る階段を登っていった。一応二階建てだが、階段はそよ風すら台風のような音を立てる状態だった。部屋の前の廊下もギシギシと鳴っており、いつ底が抜けてもおかしくない。それでも俺は、それらを何も気にせず部屋のドアを開けた。
開けた先には、キッチン込みの6畳部屋がお目見えした。その真ん中に置かれた机に、乃愛は肘を立てて座っていた。
「ただいまー」
「んーおかえり」
乃愛は暇を弄びすぎたのか、少しじとっとした目をしていた。この冷たい視線がたまらない、なんていう奴もいるかもしれない。
「今日、しっかり晩飯食べたか?」
「食べとうよ?ほら、冷蔵庫見て。ちゃんとあんたが置いてったもん消化しきったから」
靴を脱いで冷蔵庫を見にいくと、作り置きしていた数日前の野菜抜きカレーが見事になくなっていた。
「そんなことより、LINE見た?」
「見た見た。見たのバイト終わりだけどな」
「どうしょか?まさかこうなるとは思っとうなかったし……」
「いや俺も予想外よ。見た瞬間ビビって、急いで帰ってきたわ」
俺は2Lペットボトルに入った水をコップに注いでいた。自分の分と、乃愛の分だ。
「あ、もしや注いでくれとる?」
「おう」
「あんがとー」
ふわっと抜けた声で乃愛はコップを受け取った。これを猫なで声と呼ぶのだろうか。
ごく、ごく、ごく……ぷはー!!!
「友一、相変わらずの飲みっぷり!ビール飲んでるみたい」
そう言いつつ乃愛はちびちびと飲んでいた。
「念のためさ、もう一回例の画像見してくんない?」
俺のこの要請に、乃愛はさっと携帯を出した。指紋で認証して画像を開いていく。
「ほらこれ!ちゃんと確認しとるから、間違っとらんはず」
そこには、バイト先で見たものと全く同じものが表示されていた。そりゃ違っていたら問題なのだが。
それはクラス分けの掲示だった。2年8組、出席番号15番、古村乃愛。そして、2年8組、出席番号28番、新倉友一
そう、今日はクラス発表日。俺たち2人は、なんと同じクラスになってしまったのだ。




