表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/365

4月3日その①

 これは……大ごとだ!!


 バイト終わりの午後9時過ぎ、俺は送られてきた画像を見るや否や急ぎ帰宅の準備を始めた。いつも途中まで一緒に帰る同僚を見捨てて自転車にまたがり、全速力でペダルを漕いだ。お疲れ様ですと声をかけたものの直ぐに視線は前へ向いていた。バイト先から自宅まではそんなに距離はない。信号を超えて左にいけば我が自宅が顔を出す。俺はそれまで、脇目も振らずに爆走した。


 古ぼけたアパートの一室が我が家だ。雨が強くなれば雨漏りを心配し、風が強くなればトタン屋根の崩壊を気にしなければならない。高層マンションの乱立が進んでいるこの槻山という街において、それはあまりにもオンボロで古臭かった。恐らく大きな道に沿って建てられていたなら、道幅整理などで撤去間違いなしだっただろう。


 みしみしと鳴る階段を登っていった。一応二階建てだが、階段はそよ風すら台風のような音を立てる状態だった。部屋の前の廊下もギシギシと鳴っており、いつ底が抜けてもおかしくない。それでも俺は、それらを何も気にせず部屋のドアを開けた。


 開けた先には、キッチン込みの6畳部屋がお目見えした。その真ん中に置かれた机に、乃愛(のあ)は肘を立てて座っていた。


「ただいまー」

「んーおかえり」


 乃愛は暇を弄びすぎたのか、少しじとっとした目をしていた。この冷たい視線がたまらない、なんていう奴もいるかもしれない。


「今日、しっかり晩飯食べたか?」

「食べとうよ?ほら、冷蔵庫見て。ちゃんとあんたが置いてったもん消化しきったから」


 靴を脱いで冷蔵庫を見にいくと、作り置きしていた数日前の野菜抜きカレーが見事になくなっていた。


「そんなことより、LINE見た?」

「見た見た。見たのバイト終わりだけどな」

「どうしょか?まさかこうなるとは思っとうなかったし……」

「いや俺も予想外よ。見た瞬間ビビって、急いで帰ってきたわ」


 俺は2Lペットボトルに入った水をコップに注いでいた。自分の分と、乃愛の分だ。


「あ、もしや()いでくれとる?」

「おう」

「あんがとー」


 ふわっと抜けた声で乃愛はコップを受け取った。これを猫なで声と呼ぶのだろうか。


 ごく、ごく、ごく……ぷはー!!!


「友一、相変わらずの飲みっぷり!ビール飲んでるみたい」


 そう言いつつ乃愛はちびちびと飲んでいた。


「念のためさ、もう一回例の画像見してくんない?」


 俺のこの要請に、乃愛はさっと携帯を出した。指紋で認証して画像を開いていく。


「ほらこれ!ちゃんと確認しとるから、間違っとらんはず」


 そこには、バイト先で見たものと全く同じものが表示されていた。そりゃ違っていたら問題なのだが。


 それはクラス分けの掲示だった。2年8組、出席番号15番、古村乃愛(こむらのあ)。そして、2年8組、出席番号28番、新倉友一(にいくらゆういち)


 そう、今日はクラス発表日。俺たち2人は、なんと同じクラスになってしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ