過去を暴露し贖いを受ける
当時の私からしたらそれはとてもじゃないが素直に受け取れない言葉だった。だって彼女は、私達なんてゴミクズの汚いやつらだとしか思っていないように認識してしまっていたからだ。女王様に対する態度というのは2パターンあると私は思うのだ。それは憧憬か、嫉妬かだ。そして私は圧倒的に後者である。それじゃあ前者はというと、それが新倉友一だった。
「昔っから何となくこの子嫌いでね。偉そうだし、実際偉いし、そのくせ同じ学校にいるし、つっけんどんだし」
「つっけんどんって……」
私がビシって指を向けたら、乃愛はニコニコしながら曖昧な笑顔を浮かべていた。
「へえー!仲よさそうに見えるのに」
「全然仲良くなかったわよ、つい最近まで」
「でも乃愛はそんなに嫌ってない印象だったわよね?あそこから酷いことし始めたの?」
赤髪でも不良ではない、ちかちゃんと呼ばれた彼女の話し方には知性を感じた。流石に進学校在籍というわけか。
「いや、その頃はまだしてなかったね。バレンタインもみんなにチョコレート配ってたし」
「それそれ、その時にあんたからもらったチョコを見る友一の姿は、中々に恋する男子だったわよ。もうほんっと……」
少しだけ歯軋りしつつ、私は伏目になってぽろっと呟いた。
「ムカつくくらいに」
するといきなり乃愛が私の頭を撫でてきた。優しい手つきだった。
「ねえ、この子可愛いでしょ?ちかちゃん」
「ちょっ!!!やめてよ!!!やめてってば!!!」
わしゃわしゃと髪の毛を触られて、ぎゅっとされるのは心地が良いようで少し気持ち悪かった。
「だからさ」
そして急に真剣モードに入るから、彼女は怖いのだ。
「ここからの話に不備があったら、遠慮なく私を貶めてね。これは贖罪だと思っているから」
そうだ。私だって、今の彼女に向けて言いたくない。今の、何か憑き物が落ちたような彼女の前で、昔の彼女の話なんてしたくない。確かにこれは、ちかちゃんにして見たら過去の暴露なのだろうが、私に向けて過去の贖罪も同時にしたがったのだろう。そこからの話はもう聴いているからこそ、昔の自分を話したがっているのだろう。
「バレンタイン、で何かあったの?」
ちかちゃんは少し置いてけぼりな表情をしていた。
「いや、バレンタインは特に何にもないっちゃないよ。チャリティーでチョコをあげたってだけ。まあでも久しぶりに会って、物あげたから確かに嬉しかったかもね」
「ちなみにチョコあげたの、それが初めてでしょ?」
「あーその年から始めた試みだからね。私としても友チョコあげるついでになって便利良かったし」
「え、でもそこで……」
ちかちゃんは2人を見つつ、次の言葉を待った。
「そうだよ。かつて、友一は古村乃愛のことが好きだったんだよ」




