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昔の話①-6

 子供にとってお正月とは、お年玉の貰える素晴らしい日であろう。しかし私にとってそれは、苦行と以外表現できないほど嫌悪している日だった。京都三条にある鷹翅本家、そこに顔を出す必要があったからだ。初詣の出店でチョコバナナを強請ったり、コタツに入って3世代のんびり花札をするような普通のお正月ではなく、着物を着て堅苦しい日本料理を食べつつつまらない話をするのが私にとってのお正月だった。


 まあ他にも、この行事が嫌いな理由はあったけれども。


「あいっかわらずしけた顔してんねえ、古村の娘」


 声をかけてきたのは鷹翅本家の次男坊だった。少し着物を着崩していて、胸元がはだけていた。汚らしいからやめて欲しかったが、分家の私が本家の次男坊にそんなこと言えるわけもなかった。


「何でございますか?諡豪(しごう)様」

「いやああの会議堅っ苦しくて仕方ねーくてさ。そう思わね?」

「もう少し言葉を丁寧になられた方が賢明かと愚考いたします。ここは仮にも鷹翅の敷地、いくら本家のあなたでも……」

「いいってそういうのは、優秀な兄貴が全部やってくれっから。それよりもどうよ?」


 その頃の諡豪は高校生だったか…まだ中学生だったか存じていなかったが、6歳上の兄貴に家のことをすべて任せて、鷹翅の名前を使って遊び呆けているという噂は聞いていた。この人と顔を合わせるのも私にとって苦痛だった。


「ほら、ちょっと抜け出して、俺の部屋来ーよ。そっちの方が楽しいだろ?」


 厠からの帰り道、私は話しかけてくる諡豪をスルーしていた。なぜかというと……


「大丈夫だって、()()()()()()()()()()()()()


 ぎりっ!歯軋りをしてしまった。ぺっと、唾を吐いてしまいそうになった。後ろから気持ち悪いことを話しかけてくる彼に、私は全力の睨み顔を返した。


「おー怖い怖い。怖いねえ」


 私を半ば強引に部屋へと連れ込み、ゲームをすると称して押し倒したのは丁度この年の夏のことだった。はだけた着物を思い出しただけで身の毛がよだつ。その時はたまたま抵抗しているところを鷹翅の近侍に見つかって、恥部を露出する前に解放されたものの、諡豪に対して何ならの制裁が下ることはなかった。話に聞いたところ、この年の秋には別の分家である古森家の娘に手を出したらしい。その時は未遂で終わらず、齢14の娘の初めてを奪ったにもかかわらず、何の処置も取られなかった。謹慎3日くらいだっただろうか。こんなもの、何の罪も被ってないに等しかった。


 私は逃げるようにその場から立ち去った。追いかけてきたらどうしようという恐怖感が付き纏っていた。やはり正月は嫌いだと、強く強く思っていた。

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