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昔の話①-4

 その日以来、新原真琴は事あるごとに私へ食いついてくるようになった。


 文化祭の時にはストラックアウトの店番をクラスの男子に押し付けられていたから、適当に理由をつけて私も残ろうかと思った。どうせ小学校のこういう行事なんて、つまんないし。そしたら2人きりになった数秒後には真琴が来て、友一を引っ張って行ってしまった。結局1人で店番をする羽目になったのは私だった。何がしたかったんだろうと思いつつ、低学年や幼稚園児の相手をしていた記憶がある。


 運動会の時、テントの端っこでぼーっとしていた友一に話しかけたら、徒競走に出ていたはずなのに退場の際1人さっさと退場門を通り過ぎこちらへ走ってきた。私はただ、コーラの美味しさについて説いてただけだというのに、まるで超高級な飲み物を自慢しているかのように捉えられてしまった。ふぎーっと猫のように睨む真琴は、他のクラスであることなど御構い無しに私を制止していた。


 林間学校の時は、なんとたまたま同じ班になった。しかもこの時はクラスで行動が全くの別であり、真琴の邪魔も入らなかった。これは友一と話すチャンスだと思ったが、何とその日友一は欠席したのだった。というより鷹翅の養護児童全員が欠席したのだ。お金が払えなかったらしい。先に言っておくと、彼らは後に修学旅行も同様の理由で欠席することとなる。


「ちょっと乃愛!来なさい!」


 そう呼び出されたのは林間学校の残滓が残った11月の中頃だった。その日いつものようにコーラを買いつつ近くをぐるぐる回ってから帰宅した私に、母親は怒り心頭だった。


「あなた、最近あの鷹翅に立ち寄っているみたいね」

「立ち寄ってないよ、入れないもん」

「近くを歩いて、遊んでいる子供達と一緒に居るところ、近所にいる人たちからも言われているのよ!」


 一緒に居るところ、というのは言い得て妙だ。一緒に遊ぼうにも、真琴が邪魔してできなかったからだ。


「ダメなの?」


 私は純粋な眼でそう尋ねた。母親は少しだけ迷いつつ、それでもはっきり言った。


「ダメなの」

「なんで?」

「友達は選びなさい。あーいった子達とは絶対にうまくいかない。これからのことを考えた時、絶対にマイナスになるわ」

「なんで?」

「それはね……」


 ごくり。唾を飲む音が、聞こえてくるほどだった。


「あなたとあの子達は、住んでいる世界が違うのよ。だから絶対に、不幸なことになる。お互いにとって、ね」


 その時私が思ったのは、震える彼女の肩が、心底私を心配しているということだった。そしてその日を境に、私は友一に話しかけるのをやめた。コーラも、買いに行かなくなったのだった。まだ親の懇願に抵抗できるほど、私は大人ではなかったのだ。

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