4月7日その③
今週の乃愛は忙しかった。3日に入学式の在校生代表として出席、4日は午後から保護者向け相談会に出席し学生生活についてレクチャー、5日は教科書販売と歓迎会の最終リハ、6日は新入生歓迎会本番、そして今日は始業式の司会である。さながらうちのバイト先以上のブラックさである。これで更に3日と5日は水泳部の自主練にも出ていたのだから、もはや感嘆するしかない。
正直言うと少し不安だった。流石にハードワークではないのか?しっかりと眠れてるのだろうか?疲れは溜まっていないだろうか?体育館に向かう中で、俺は1人そんな心配をしていた。
整列して、前へならえをする。始業式だからそのままなおれの後も立ち続けていた。校歌を歌い、そして着席する。俺らの隣には3-1の数名が、懐に忍ばせた単語帳をコソコソと開き始めていた。受験生か。想像もできないな。
「皆さん、おはようございます。本日司会を務めさせていただきます会長の古村です」
乃愛がスポットライトを浴びた。その顔を見て、俺はさっきまでのお節介を恥じた。
「まずは校長先生のお言葉です。校長先生、よろしくお願いします」
のっそりと上がってくる校長先生なんて見ずに、乃愛の方を見てしまった。キリッとした目、清潔感のある肌、そして威風堂々とした立ち振る舞い。疲れているはずなのに、昨日の夜もうどんを食いながらバスケ部のわがままを愚痴ってたはずなのに、そんなもの微塵も感じられない表情だった。
これが、学校での乃愛なのだ。なんでもこなせる超人で、誰も贔屓せぬ高嶺の花なのだ。それが、自らなりたくてやっているのか、誰かに請われて演じているのかはわからない。しかしながら、今の彼女は他の誰よりも眩しかった。自分など、直視すれば目が見えなくなるのではないか思えるほどだった。
式は恙無く進んだ。教頭先生の言葉、教務課の言葉、風紀委員長の小言、美化委員長による花壇保全の話、保健委員長による健康診断に関するお知らせ、何一つ淀みなく進んでいった。乃愛もただ進めるだけでなく、
「1年生にはまだ先の話かもしれませんが、少しずつ受験についても知っていきましょう」
とか、
「皆さんも、自然を大切にしていきましょうね」
など、補足するような共感生の高い言葉を付け足してから次のプログラムに進むことも抜かりなく行なっていた。カンペなしに、である。進行も全て、頭に叩き込んでいるのだろう。俺には100%無理だ。
最後に前に立ったのは先代の選挙管理委員長だった。
「今月末の4/28、今期の生徒会役員を選抜します!選出役員は会長、副会長、書記、会計、庶務、各学年代表の8名です!立候補期間は来週4/14から4/21までです!立会演説会は4/26、投票期間は4/26〜28を予定しております!また掲示しておきますが、少しでも興味ある方はよろしくお願いします」
これを聞いてふと実感した。そうか、もう生徒会の任期が終わるのか。生徒会長、続けるのだろうか?続けたいのだろうか?乃愛に尋ねてみたくなった。
「ありがとうございました。皆さんも生徒会について少しでも疑問があれば、先生方や私達を頼ってください。アドバイスしますので」
天使のように微笑む外向きの彼女では、その真意など到底計れなかった。




