友一少年のその頃は①
初めてその子のことを見たとき、世界の違いを感じた。父親の言うことを半分も聞かず、だからといって遠巻きに見ている子供達の相手をしない彼女が、お姫様に見えて仕方なかった。大人達が平伏すようにその親子へ接待していた。中高生くらいのお兄ちゃんお姉ちゃんが雑用をこなしていた。そして…何も事情がわからない俺達は、いつだって蚊帳の外だった。
その子は月に一回、この児童養護施設に来ていた。俺はそれを、いつも遠巻きに見ていた。
ツインテールの髪の毛は、艶があって綺麗にまとめられていた。恐らく使用人かそれとも母親か、ともかく大人に丁寧に結われていた。ぼさぼさの自分とは大違いだ。
服も子供用ながら年相応の派手なものではなく、むしろドレスのような黒色のワンピースを着ていた。蛍光色など1つも入り込ませぬその出で立ちは、チャリティーでもらったボロボロのTシャツを着る自分とは比べようもなかった。
顔立ちも子供ながらに美人だと評するに値するものだった。適度に大きな目に鼻筋通った整った顔は、美しさだけでなく気品すら感じさせた。俺となんて……比べるのが失礼なくらいだった。
その子が来る時はいつも、俺は釘付けだった。プレーンルームの窓際で、遠くで会話をする大人達に混じっている彼女を目で追いかけていた。だって仕方ないだろう。みんなだって、自分の国のお姫様が来たとなったら、一目見ようとするだろう。
そうだ。だからこれは恋ではないのだ。恋慕の情なのではない。
これは信仰だ。崇拝だ。奴隷とお姫様なんて、結ばれて良いものではないし、結ばれたいとも思わない。
自分のものにしたいだなんて、これっぽっちも思わない。自分のものになんて、むしろなってほしくない。自分のような卑しい身分となんて、一緒に居てほしくない。
彼女には多分、同じくらい身分の高い王子様がお似合いなのだ。彼女がこちら側に落ちて来る必要もないし、こちらが彼女側に身分を上げるなんておこがましい。
そんなことを思いながら、小学校に入るまでは遠くで見つめるだけだった。その子と同じ小学校に通い始めても、何1つとして変わらなかった。強いて言うなら名前を覚えたくらいだ。
古村乃愛
そして小学校に通うにあたり、孤児の自分にも苗字が与えられた。鷹翅にて代々忌み嫌われて来た漢字、新を使って、
新倉友一
そんな遠くで見つめるだけだった存在が、一気に近くなったのは、同じクラスになった小学4年生の時だった。




