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昔の話を始めよう

 古村乃愛(こむらのあ)は、幼少期から自分が由緒正しい鷹翅家の分家であると言う認識で育ってきた。古都にて遠く遠く1000年以上の歴史を誇るかつての名門貴族、鷹翅家の血を引く自分は、その分家である古村家を継ぐ者として教えられてきた。


 貴族分家の両親と聞けば、とても厳しい家庭を思うかもしれない。しかしそうではなく、むしろ乃愛は甘やかされて育てられたと自覚していた。買って欲しいものは何でもさせてくれたし、やりたいことは迷いなく許可を出してくれた。母は少しの習い事だけちゃんとしていたら何も口を出さなかった。その習い事の延長で、水泳部に所属しているのだ。


 古村家と切っても切れない関係に当たるのが、児童養護施設を始めとした槻山市、茨田市周辺の鷹翅関連施設だ。実質的な管理に手を出しているわけではないが、名目上は乃愛の父がそのトップについていた。月に一回ペースで見に行っては、何か困っていないかヒアリングをする。その業務は、ゆくゆく自分が担うことになる、乃愛はそう認識していた。


「だから私達が思っている前から、出会っていたかもしれないね。時々お父さんについていって養護施設に行ってたし」

「……ねえ、乃愛。正直なこと言っていい?」

「ん?」

「話が思ったよりぶっ飛んでてついていけないんだけど」

「まあそうなるよねー」


 そう言いつつ私はお水を飲んだ。案外昔の話をしようと思ったら喉を使うんだなと実感していた。


「まあ薄々気づいていると思うけど、友一はそこの児童養護施設出身なんだ。友一は2歳の時からそこで暮らしていた。小学校の時も中学校の時も、帰る家はそこだったんだ」


 ここでちかちゃんもくいっとお水を飲んだ。


「2歳……ご両親は、亡くなられたの?」

「いや、わからない」

「わからない?」

「捨てられたのか亡くなられたのかわからない。ただ、戸籍はなかった。それが友一の人生に大きく影響を与えるんだけど……まあいいか」


 乃愛はニカッと笑った。誤魔化しの笑みだった。


「前提条件はこれで終わり。私は名門貴族の血を引く分家の跡取りで、友一はその名門貴族の管理下にあった児童養護施設出身だったんだ」

「なんかまるで、それだけ聞くとお姫様と民衆って感じがするね」

「……………」

「ん?どうしたの?」

「そうだね。確かにあの頃の私は、間違いなくお姫様だった。それも、漫画で出てくるような、傲慢で、尊大で、陰湿で陰険で、まるで自分がこの世のお姫様とでも言わんがばかりの振る舞いをしていた」


 私は少し痺れつつある足を気にしつつ、正座で話し始めた。


「うん、ここからが本格的な、私達の物語(かこ)だよ。ちょっと長くなったり、うまく言葉を紡げないかもしれないけれど、宜しくね」

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