17時15分、かんぱち荘、古村乃愛
まあそりゃ驚くわな。私は当然の反応にある種の納得を覚えていた。
「ってことは……」
「あーそこ適当に座って!色々話さなきゃダメだけど、それ以上にご飯作らなきゃダメだからさあ。何なら食べてく?食器人数分しかないから友一の使うことになるけど」
「!?!?!?!?」
「や、私が友一の使って、ちかちゃんは私の使う手もあるか」
「……それなら私が新倉君の使う」
ちかちゃんは頬を赤く膨らませつつ、いつも私が座っている位置に腰を下ろした。
「あ、心配しなくていいよ。友一ならバイトで9時過ぎまで戻ってこないから」
「何のバイトしてるの?」
「飲食店でホールとレジと厨房やってる」
「全部じゃん。そんな大変なことしてたんだ…」
私は逃げるように料理を作ろうとしたが、やっぱり辞めて水だけ注いだ。このコップも2種類しかない。紙コップなんて便利なものはないのだ。
さっと私用のコップをちかちゃんの前に置いた。私はいつも友一が座っているところに腰を下ろした。なんか違和感がすごい。まるで他人の家に来たみたいだった。
「うん……どこから話そうか……あ、お水どうぞ!」
上宮天満宮の新鮮な井戸水だよー!とは言わないでおいた。
「まあ、大前提から話そうかな?私、古村乃愛は、新倉友一と同じ部屋で暮らしている。でもこれには、実はお互い兄妹だったー!とかいうこともなければ、実は私達付き合ってましたー!なんてこともない」
「へ!?!?」
驚いた声を上げた彼女の目は、まん丸に見開いていた。
「乃愛、それ冗談じゃないわよね?」
「冗談じゃないよ」
「実は乃愛が新倉君のお姉ちゃんとか……」
「あれは友一がついたとっさの嘘だよ。全く、そんなんで誤魔化すことなんてできないのにね」
「実は乃愛と新倉君が付き合ってたとか……」
「それはただの噂。まあ2人であそこにある扇風機買いに来たの見られたからだから、あながちただの噂じゃないけどね」
ちかちゃんはコップの口を包むように持って両手でぐいっと水を飲んだ。結構な飲みっぷりだった。そしてコップを置いてから口を開いた。
「あのさあ乃愛」
「なに?」
「私の頭だと理解が追いつかないんだけど……え?つまり何?特別な関係でもないのにずっとここで2人きりで暮らしてるってこと?っていうか、お互い親御さんは……」
「いないよ」
そう冷たく言った私は、ようやく水を一口もらった。そしてコップを置くと、ようやく腹を決めた。
「そうだね。まずはそこから話をしようか。勿体ぶるのは嫌だから、先に言っておくね。友一には……両親がいない」
「え?」
「所謂、孤児ってやつだよ。そして私の両親だった人は……」
少しだけ息を吸った。
「鷹翅家傍流の一つ、古村家の……現当主よ」




