4月7日その②
一度教室に集まってから始業式だった。手ぶらのほうが式を受けやすいという理由もあるし、式が始まるまで担任と生徒、または生徒同士で交流を深めるという意図もあるだろう。案の定クラス内は騒がしかった。そしてそこには、乃愛の姿はなかった。
これは何か身に危険が及んだとかそういう類の話ではない。式の準備に駆り出されているだけだ。その証拠に、いつもなら本を片手に椅子に座っている遠坂も、この日は席にカバンを置いて何処かへ行ってしまっていた。
俺の席は1番前だった。窓側と廊下側の一列が6人、残りの4列が7人、合計40人のクラスだ。しかも後ろの机を揃えているため、前の4人は教壇に一段と近く配置されている。その4人のうちの1人が俺だった。お陰様で黒板がよく見える。
窓側から2列目の1番前は、周囲に人が見えなくて困る。ただでさえ1番前は振り向かないと喋りかけ辛い上に、左隣が居ない配置はぼっちになれという神のお告げのようだった。その上右隣は高見である。去年も同じクラスだったが、陽キャで口が悪くすぐ人に意地悪をする女だ。話しかける気にもならない。俺は1人でぼーっとしていた。この時期に1人でいることは1年間ぼっち生活に繋がりかねなかったが、まあ正直どうでもよかった。
「にしてもさあ、魅音」
「なに?」
「このクラスマジで嬉しくない?有田君に今野君に渡辺君って、学内で人気ある人めっちゃ揃ってるしさあ。マジラッキー!」
高見は昨年同じクラスだった武田魅音に馴れ馴れしく話しかけていた。2人が仲良く話している姿など、昨年はあまり見たことなかった。違うグループの人間だが、昨年同じクラスというアドバンテージと安心感がそうさせたのだろう。これはクラス替えの当初によくある現象で、2年連続同じクラスの奴とか出席番号の近い奴と話すのはよくある話である。そのまま仲良しになる場合もあるし、違うグループに所属する場合もある。
「確かに、顔面レベル高いっていう感じは……」
「そう!そう!」
武田の台詞に被さって高見が同調していた。
「女子のメンツもよくね?良子とか唯香とか采花とか……ってか1-5女子ばっかこっちきてない?」
「ほんとだ。男の子誰かいるのかなあ」
首を振って辺りを見回す2人。
「いなくね?」
「いないね」
いや居ますけどね?高見さん、あなたの隣にいますけどね?これが灯台下暗しというやつだろうか。それか単に認識されていないのか。でも確かに1-5から2-8に来た男子は俺1人ではある。まあ、知らないなら別に大したことはないけど……
「新倉君は?」
ピクってなった。背中に何かの筋がスウゥって通った。誰だ?俺の名前を呼んだのは?声色的に高見でも武田でも無かったぞ。
「あ、あー!めっちゃ近くにいたじゃん!」
そう言って武田は俺の背中を叩いた。びっくりしつつ振り返ると、
「今年もよろしく」
と手を振っていた。フォローのつもりだろうか。どうでもいい。高見みたいに未だにピンと来ていないくらいの反応でちょうどいい。
それより、声の主は誰だ。振り返ったついでに辺りを見渡した。武田の後ろでは、近藤が後ろの竹川に話しかけていた。




