7月3日その②
これからのことを考える余裕なんて、これまで無かった。そして今も、2学期以降のことを考える心の余裕があるかと言うと、正直言ってない。
「文化祭ってさ、何するんだっけ?決めた?」
「あー決めとらんね。篠塚仕事しとらんやん」
乃愛は少し毒を吐いて、炒めた回鍋肉を皿に移していた。
「早めに動かな大変やろなあ。6組なんか映画撮るらしいからこの夏休み返上で撮影するらしいで」
「まじかー。絶対やだ」
そしてその皿を俺は卓袱台に運んで置いた。そしてその足でご飯をよそいに行った。
「わーありがとう。ご飯はやるで?」
「いいって、そのフライパン洗っててくれ」
「りょーかい」
今日も今日とてこんな風に、お互い微妙に助け合って晩御飯を食べるのだ。いつも通りの食卓に、教科書はいらないと片付けた。
「いただきまーす!」
「いただきま……」
ブー!!!ブー!!!!
携帯がけたたましく鳴り響いた。これは電話だ。
「あー出てええで!先に食っとっていい?」
「すまんなー!衛藤からだしすぐに終わるわ。どうせ大したことないだろ」
「え?」
え?という乃愛の反応を軽視して、俺は電話に出つつ外に出た。やはり扇風機はある程度風の循環を良くしてくれるのか、外の方が暑く感じた。しかもそのべっとりとした暑さは、心地悪さを加速させていた。
「はいもしもし」
「お前古村と付き合ってんの?」
いきなりのインパクトだった。ジャブも何もなくストレートを繰り出されてしまった。面倒な前置きとか忌避している彼だとしても、この入りは正直想定しておらずまごついてしまった。
「いきなりどうした?開口一番そんなこと言われても呆然とするしかないぞ」
やれやれと思っているような口調にしながら、心の中では思考を張り巡らせていた。どうやって誤魔化していこう。どうやったら無理なく整合性が取れるだろう。
ふっと、3日前の彼女の言葉が浮かんできた。
別に付き合ってたとしても、隠す必要なんてないやんな?
「魅音が扇風機買いに来てるお前らを見たってさ」
「あーなるほど、たまたま会ったんだよ」
「お互い扇風機を買いに来てたのか?」
「いや、買いにきてたのは俺だ。自分の部屋に欲しくなってな。で、たまたま会ったから、たまたま見てたと」
「店員として声かけたら突然いなくなったとか聞いたけど」
「あー一緒にいるの見られたく無かったんじゃね?」
「なんでまた」
「ほら、あいつ俺のこときら……」
ばあん!!!と音がしてドアが開いた。驚いた俺を尻目に、乃愛はスマホを耳元に当てて誰かとの電話を応対していた。それがわざとかどうかは分からなかったが、口元には回鍋肉のソースがこびりついていた。
「そんなに好きじゃないからさあ」
俺は少しだけ言い方を変えた。
「ふーん、わかった。急にすまんな。それじゃあ」




