7月3日その①
「なんかさーテスト前日に球技大会の話とかされたらさ、テストやる気削がれへん?めっちゃやる気落ちとるんやけど」
乃愛はそんなことを言いながら回鍋肉の具材を持ってウロウロしていた。回鍋肉と言っても豚肉とキャベツだけだ。いや、回鍋肉的にはそれで十分条件かもしれないが。
「だから今日いきなり料理作るとか言い出したのか。今日は適当なもので済ませるって話だったのに」
「そーゆーこと!」
「乃愛って、勉強のやる気出ない時は部屋の掃除とかしまくるタイプだろ?」
「部屋どころかトイレ掃除までしとるわ!そういやさ、シャワーとかトイレって共用やんな?あそこ誰が掃除しとるん?」
俺は頭を振りつつ、今日星川先生が言っていた生物の暗記ポイントをまとめていた。テスト前日に試験に出るところを言う先生とか居んのかよと思っていたが、流石自由の学校先生まで適当になるみたいだった。
「なんか……それはそれで怖いな」
「怖い?」
「いやだって、隠しカメラとか仕掛けられとったらどうするん?私の裸とか、あんたのトイレシーンがとられとるんやで」
「前者はまだしも、俺のトイレシーンとかどこに需要があるんだよ」
「わからんでー!この世には色んな癖の人おるって知っとる?男子高校生の肢体を狙う輩がおってもおかしくないって」
そう言いつつも俺は、3日前の老丹さんの変態行動を思い出して少し不安になってしまった。今度さりげなくカメラとかないか確認しておこう。
「バカなこと言ってないで、早く飯作って俺に遺伝を教えてくれ」
「悪いけど私理科選択は化学と物理やねんな」
「は!?!?」
「いや何そんな驚いとんねん!いっつも理科の時授業別れとるやろ?うちのクラス文理ごちゃまぜやねんから」
そういやそうだったな。
「じゃあどうしよう……誰に聞こう」
「……ちかちゃんは?」
乃愛は一度もこちらを振り返らずに呟いた。サクサクとキャベツを切る音が部屋に充満していた。
「聞いちゃダメだろ。多分お互いわからないまま時間だけ過ぎそう」
「ひどーい」
「ってことは遠坂もダメだし……古森はバカだし……」
「ほんとひどい」
「あって新河だな」
肉が投入されたらしく、ジュージューと言う音と香ばしい匂いが立ち込めてきた。
「友一、だいぶクラスに馴染んできとるよな」
「それ、前も聞かなかったか?」
「ええやん何回聞いたって。私は尋ねたことあるんか覚えとらんけど」
キャベツが投入され、少しだけパチパチと音を立てていた。
「これから楽しみやね!」
「これから?球技大会のことか?」
「それもやし、2学期からのことやって!文化祭と体育祭と修学旅行!!今年は少しくらい、楽しみなんちゃうん?」




