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少女は胃痛で伏せていた

 胃が痛い。死ぬほど胃が痛い。昔からこうだ。ちょっとしたことで痛みが出て、伏せて動けなくなってしまう。私はその日、次の日からテストだというのに学校を休んでしまった。原因は明確だったが、あえて触れないでおこう。触れてしまったら、困らせてしまうかも……


「魅音大丈夫か?生きてる?」

「って!!何であんた勝手に入ってきてんのよ!!」


 昼過ぎスクラート胃腸薬を飲んで安静にしていた私に対して、駿平は何の遠慮もなくずがずがと部屋に押し寄せてきた。叫んだらなお一層胃が痛んだ。決して、駿平を視認したからではないと、そう連呼していた。


「そりゃ、お前が学校休むからだろ?まったく、テスト前日に休むとか心配するだろ。ただでさえお前いっつも欠点ギリギリなのに……生物の星川、最後に出るとこ言ってくれてたからメモしてきた。はい!」


 私はむくりと起き上がり、ノート手に取った。


「ありがとう」

「で?また持病の胃痛か?」


 うっ…やはり気付かれていた。


「大体お前、先週からずっとなんか変だっただろ?あんなにご執心だった新倉(にいくら)の話もぱたっと止んで」


 ズキ!!ズキッズキッ!!


 とっさに腹を抑えた私を見て、駿平は小声で呟いた。


「……図星」

「ち、違う!!それは……ほら、ピアノの代役に目処たったから自然とフェードアウトしていっただけだって」

「魅音は音楽の才能ある男に惚れやすいからなあ。顔とかじゃなくて」

「だから違うって!!」


 昔から好きなのはたった1人だ。そいつとは……目の前のそいつとは、絶対に結ばれないけれども。そう思うと仲よさそうに買い物をするあの日の2人を思い出して、また胃が痛んでしまった。


「ほう?じゃあ何でそんな状態になってるんだ?」

「……言わない」


 言えるはずがないだろう。新倉君と乃愛(のあ)ちゃんがみんなに隠れて付き合っていることなんて。しかもその姿が、かつての私らにそっくりだったことも、言えるはずがない。


 振り絞るように、私は尋ねた。


「夕実さんとは、うまくやってる?」

「別れた」


 即答だった。意外なほどにあっさり言われてしまい、逆に動揺してしまった。


「やっぱ違う学校ってのは難しいな。後なんだろ、価値観の相違?思ったより愛が重くて、マジ一緒にいて辛かったわ。顔は良かったんだけどな」


 そして悲しい事実に気づいてしまった。その言葉を聞いた瞬間に、胃の痛みがすっと引いてしまったのだ。嘘だろ!?いや薬のせいだ!!そうだ!!そこまで私は墜ちていないはずだ!!好きな人の不幸を喜んでしまうなんて、最低な女じゃないか。


 それでも、ちょっと嬉しいのは事実で、取り繕うように


「残念だね」


 と言った。するとだ、駿平はさっと私の前に手を伸ばしてきた。


「……手を繋いで欲しいの?」

「お前時々凄いボケかますよな。そうじゃなくて、次はお前の番ってことだ。そりゃこっちが身を切って別れ話話したんだから、そっちも何で胃痛になったか話してくれるよな?」

「え?」

「何があったんだ?魅音」


 その後数時間粘り、ついに根負けしたのは内緒の話だ。

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