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6月30日その②

 お隣さんが何故かそわそわしながらシャワー室から部屋へ戻って行くのを階段の下から見ながら、俺は一歩一歩階段を登り始めた。今日も中々に暑くて、ほんの少し自転車を漕いだだけでTシャツが汗でびっしょり濡れてしまった。もう6月も末日、いよいよ本格的に夏が来たということであろう。


 冷蔵庫に入れていた冷たい水が飲みたいな。そんなことを思いつつドアを開けた。その時、乃愛(のあ)は机にはいなかった。


「ただいま」

「おかえりー」


 風でぼやっとした声がこだました。よく見ると乃愛は扇風機の前に座ってその風の恩恵を最大限浴びているようだった。もうブラジャーを脱いでいるところをみると、シャワーを浴びてきた直後なのだろう。


「扇風機、気持ちいいか?」


 チリンチリンと風鈴がなりつつ、俺は今日の晩御飯であるゴーヤチャンプルと冷やした水を取り出した。作られる料理もえらく夏っぽいものになってきた。


「最高〜このまま溶けちゃいそう〜」

「溶けるな溶けるな」

「ほら、友一も浴び浴び」


 首振りモードになったらこっちにも来るようになった。個人的には、ずっと浴びるよりこっちの方が身体が冷えなくていいなあと思った。


 コップに入った水を一杯飲み干すと、ぷはああああと威勢良い声を出した。


「いやーほんと、夏が近づいてきたな」

「というかもう夏やろ。明日から7月やで!7月!」

「期末試験も始まるしな」

「ほんまほんま、これ抜けたら午前授業になるんやろ?」

「球技大会があるけどな」

「あんなんお遊びやん!もう実質夏休みやで」


 よく見ると乃愛の足元には香澄のパンフレットが置いてあった。白浜や須磨と違って海水浴場として知名度はあまりない香澄なのだが、日本海ならではの高い波と美味しい海鮮が特徴なのだという。俺の知っている情報はそれだけだ。


「そういやさ」

「ん?」


 俺がゴーヤの苦味を口中に広げながら応対した。


「魅音ちゃん、なんか言ってた?」

「何も聞いてないな。そういえば」


 そう、あの時確かに武田魅音に俺らのことを見られたはずなのに、彼女はいつも通り接してきていた。と言っても、乃愛は知らないが俺はそんなに密に関わらないから微妙な変化とかはわからないが。


「気を使われたんじゃないか?」

「そういうことかな?」


 だとしたら、案外いい奴だな。俺はそう思うことにした。


「ねえ、友一。私ら、一緒に住んでることがバレたらあかんねやんな?」

「何今更設定を確認するそうなこと言ってんだよ。そりゃ…」

「じゃあ、さ」


 乃愛は少し溜めてから、ずっと自然に吐き出した。


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