6月30日その①
「そういや新倉、あれは持って来たか?」
「あれ?」
と尋ねた直後に思い出して、俺は急いで自分のカバンを開けて少しボロボロの書類を店長の前に出した。
「忘れてたな」
「いやー完全に忘れてましたね。ご査収ください」
「てっきり何も予定がないから出さないのかと思っていたさ。そうなったら週に6日入れてやろうかなあと……」
「別に自分は何連勤でも構いませんよ?むしろ今からもっともっと働きたいと思っているくらいに」
割とこれはガチである。既に海に行こうと言う話でまとまっており、竹川の父親の会社で安く泊まれるところがあるからと紹介してくれて、5人で行くことに決まりそうだった。しかしそうして安く済ませようとしても、俺らの家計では金銭的負担は大きい。まだ払えなくはない程度にはなったものの、お金はなるべく持っていた方が良いだろう。そう考えるのは並で、そしてバイトを増やしたいと思うのも並だった。最近は乃愛も事あるごとにバイトしないで良いかと尋ねてくるから、彼女に安心させる上でももっと入りたかった。
しかし相変わらず、ここは高校生に優しすぎる職場だ。飲食店なのだからもう少し、コンプラぎりぎり違法ぎりぎりの働かせ方をして欲しかったのだが、
「冗談だ。で、計画表はこれでいいのか?」
と冗談で流されてしまった。仕方ないなあと肩を落としつつ、俺はそのまま帰宅しようとしていた。
「お、旅行に行くのか?」
そう尋ねた店長の声を、遠くでぼーっと待っていた塚原が聞き逃すわけなかった。
「クラスメイトといってきます」
「どこに行くんだ?」
「多分香澄の方ですね」
「あーあそこはお魚美味しいぞ!近くに有名な温泉もあるし!俺もよく車飛ばして行くんだよ!いいねえ」
そうして店長はハンコを押してニヤッと笑って答えた。
「楽しんできな」
「はい!」
そうして店長の部屋を出た。まあ出た先には詳細を聞きたくて聞きたくて仕方ない顔をしている少女がいたのだが、それはほっておいて帰ろ……
「せんぱーい、旅行行くんすかー?」
完全に目が笑っていない状態で話しかけてきた。
「もしかして高校生だけで行くんですかー?親御さんの同伴なしに?女の子と?そんな一つ屋根の下なんていやらしいですー見損ないましたー」
うるせえなあと思いつつハイハイと対応していると、服の裾を掴まれた。そして小声でこう言われてしまった。
「なんか、どんどんと遠くに行く」
その小声を押し黙って咀嚼していたら、急にばああんと背中を叩かれ、
「よし、今度バイト仲間で旅行企画しましょうよ!ね?」
なんて笑って言い始めた。無論その顔は多分に無理をしている顔だった。




