6月24日その⑥
皆さんは、怒った後になって後悔したことなどあるだろうか。こっぴどく叱ったものの、後から思い返してみたらそんなに怒らなくても良かったのになって思ったことなど、あるだろうか。俺は今まさにその状況に陥っていた。
いや確かに、当初は怒っていた。デパートを出て、線路を超えた辺りまでは怒り続けていた。でも、家に近づくにつれてその怒りは収まっていき、そもそもそんなわがままに付き合わせた俺にも責任があるなと思い始め、最後の方には後悔しか残らなくなってしまった。
あんなに怒らなきゃ良かった。もっと話を聞いてあげたら良かった。そんなことを思いながら歩く道はとても長く感じた。行きしなは隣に居たから、全く苦には思わなかったのだ。
重たい足取りで歩をすすめていると、近くの公園のゴミ置き場に来ていた。これ自体は何の変哲も無い、いつもの帰り道だ。しかしそこにある廃品ゴミ置き場に、とあるものを発見したのだ。
先程売られていたような、青色の羽根と白い骨組み。作ったメーカーも同じのようだ。少し埃が被っているが、経年劣化は見た目上感じない。回収を禁じるような立て札もないし、これは回収できるのではないか?序でに綿が露出している布団も持ち帰ろうと思ったが、洗濯と修繕の手間を考えて辞めにした。
まあ動かないんなら、元あった場所に戻せば良いか。そんな適当なことを考えながら、俺は部屋にそれを持ち込んだ。ベランダに出て丁寧に埃を払うと、コンセントに差し込んで電源を入れた。それはフォンフォンフォンと音を立てながら、羽根を回し風を送り始めた。うん、確かに涼しいな。
弱中強と強さも変えられるし、タイマーもあるし、首振り機能がないのは惜しいが十分有用であろう。そうか、行きしなは公園の通らないルートで行ったから気づかなかったのか。もっと早く見つけておけば、あんなことにはならなかったかもな。
「なんか、上手くいかないな」
そうポツリと呟いた俺は、扇風機に向かって叫び始めた。
「あーーーーー!」
無論電源はonのままである。震える声が面白くて、小学生みたいだなと自嘲したものの、それでも止まらなかった。
「あーーーーー!」
「た、ただいま……」
びくっ!!!!!俺は即座に電源を切ってドアの方を見た。そこに居たのは、卓上のミニ扇風機を持った乃愛だった。
「あー!!!扇風機……」
そうして近づいて来た乃愛に対して、俺は正確に事実だけを述べた。
「た、たまたま公園のゴミ置き場に置いてあったから、埃をとってつけてみただけだ。別に、乃愛のために買ったわけでも、持って来たわけでもない。そこだけは間違えるなよ!まあでも……暑くなったら使っていいから」
何で俺の言い訳に聞く耳も持たず、乃愛は扇風機の前を占拠し始めたのだった。いや、暑くなったら使うんだぞ?という指摘を、彼女の目に少し残った潤いを見て自重したのだった。




