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6月24日その⑤

 思い返してみるとこれはなかなかに滑稽な結末だ。俺は自分のことながらまるで他人事のように振り返っていた。休日こんな人の多いところに行っていたら、そりゃ同級生の1人や2人遭遇したっておかしくはない。うん、改めて考えるまでもなくそれは自明なことに思えた。


 これは多分痛いお灸となるだろう。隣であわあわしている乃愛(のあ)にとってな。ここのところ彼女は気が抜け過ぎだと俺は苦言を呈したくなっていたから、丁度良いタイミングだったのかもしれない。この高校2年生になってからというものの、まるで自分と新倉友一が仲良しであると勘違いされかねない行動を取り始め、途中で決めた取り決めも徐々に守らなくなって、それがこんな形で爆発したのだ。猛省を要求したい。そして俺は、彼女のわがままに付き合い過ぎていたと猛省すべきだ。これからはもっと厳しくしなければ、本当にバレてしまうではないか。


 暫く三人で立ち尽くしてしまった。黙ったままの数秒間が、あたかも眠れぬ夜の数分間に感じた。


「あ、担当の人呼んできます!」


 しかしここで助けられたのは武田の真面目さだった。大学生のバイトと見間違うくらいの見た目の彼女は、チャラチャラしたピアスやキラキラしたネイルとは裏腹に根は真面目で引っ込み思案な女子生徒だ。今回も我々に対して詮索せず、人を呼んできた。しかしここで、いきなり乃愛が俺の裾をつかみつつこう言った。


「あ、いえ大丈夫です!ちょっと心変わりしました!すみませーん!」


 へ?って顔になったのは武田だけではない。俺も相当腑抜けた顔になってしまった。そして乃愛は俺の手を掴むと、そのままエスカレーターへ駆け出して行った。


「え???ちょっとおま、どうしたんだ!?」

「あ、これ登りやんか!」


 なんて声を出したかと思ったら、そのまま俺の手をつかみながら反対側へと駆け出して行った。そしてエスカレーターに乗った瞬間に、パッと手を離した。


「さっきのさ、昔からありそうな電気屋とか行ってみる?そっちのが安いのあるかもしれんし……」

「乃愛??どういうことだ??」

「どうって、安なかったらいややな……」

「隠し事なんてないように堂々と振る舞うしかなかっただろ?なんであんな、見るからに怪しいことしてるって態度とったんだ!?」


 ここから乃愛は、全くこちらをみないで会話をし始めた。それもまた、俺の怒りを買う羽目になってしまった。


「ち、ちょっと気が動転しちゃってさー。色々気が回らなくなったっていうか……」

「大体なんでこんな人の多いところ行こうと思ったんだ??俺はデパートで偶然会ったクラスメイトを装うって話だったのに、すぐ電気屋だのなんだの行こうとして」

「そ、そんな説教なんてやめてさ!他んとこいこ?」

「買うなんて一言も言ってないのにそうやってわがままばっかり言って」

「や、そんなことないって」


 静かに怒る俺に、乃愛のトーンはどんどんと下がっていった。しかしその気分の低下が、俺の怒りを鎮めることには繋がらなかった。


「もう、付き合いきれない」


 そして俺は出口へ向かっていった。


「え?ちょ、友一?」

「家電見たいなら1人で行ってこいよ。俺は帰るから」


 そして俺は、1度も乃愛の方を見ずにデパートを出たのだった。

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