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6月24日その④

「なあ友一、この……」

「却下だ」

「なんで却下やねん!というか何も言っとらんろ!」

「どこからどう見ても霧ヶ◯見てただろお前。そんな高いもの買える訳ないだろう!」

「でもこれすごない?人を感知するセンサーだって!これでその人それぞれの温度に合わせた風を送り、節電効果と快適指数が相乗効果になっとるってよ!」

「節電効果?そんなものなくてもエアコンを使わない方が安く済むだろ?」

「えー買ってやー!買ってやー!」

「駄々をこねるな!高校生にもなって情けない」


 まるで先程までの会話がなかったかのように、俺らは服の袖を引っ張り合いながらデパートの中に入っている某大型電気店を練り歩いていた。特に乃愛(のあ)はこういうところに来るのが好きで、隙あらば買ってもらおうと画策している節があった。


「ほら友一見て見て見て!材料乗っけて電子レンジでチンするだけで料理ができるんやて!これすごない?うちにあったら時短にもなってめちゃ便利やで」

「そんなことする必要ないだろお前の腕だと」

「いやーほらお互い疲れとる時とかあるから、ね?」

「却下だ。というか俺らは涼みに来たんだぞ?家電を買いに来たわけでは……」

「おー友一!これもすごいで!ボタン押したら自動で埃取ってくれるんやて!ルンバって言うんやっけ?」


 と、テンション高めに話しかけて来る乃愛。俺からしたら何が面白いのかわからなかったが、この世には家電の性能を楽しむ集団が一定層いるらしい。彼女もその1人だが、購入できないというある種のハンデを背負いながらのものだった。


「な、なあ友一……」


 乃愛がわなわなわなとしながら指差したその先にあったのは、扇風機だった。お値段は1280円……1280円!?


「やばないやばない??これ普通に動くんやけど、普通に動いて1280円とかやばない??」

「いやいやいやいや、扇風機ってせいぜい安くて3000円とかだろ?いやいくら激安セールだからってそれは…」

「店員さーん!これ下さーい」

「あっちょっと!!」


 勝手に購入しようとする乃愛の口を必死に抑えた。


「なんでやなんでや!?これはまたとないチャンスやで!!我が家に扇風機を入れるチャンスや!この青色の羽根と白色の骨組みが私らの夏を快適にするんや!」

「普通に考えてこの値段おかしいだろ!もうちょっと良く考えてくれ!めっちゃ電気代かかるかもしれないし、すぐ壊れるかもしれないだろ?」

「すみませーん!店員さーん」

「って、人の話聞いてんのか!?」


 そんなやりとりの中、1人の店員さんが近付いてきた。


「いかがいたしましたでし……」

「これくださ……」


 お互い最後まで言い終わることができず、顔を見合わせてしまった。その店員さん、胸元のポケットに『武田』と書いてあったのだった。

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