6月24日その③
「めちゃくちゃすずしー!さいこー!」
「おいそうやって手を伸ばすのやめろ。恥ずかしいだろ?」
がんがんに効いたエアコンを身体中に浴びながら、俺は中央付近に置かれているベンチへ向かっていた。それを咎めるように、乃愛は目を輝かせていた。
「……いかがいたしましたか?お嬢様」
「友一、私家電売り場に行きたい」
「外では新倉君呼びじゃないのか?誰か見てるかもしれないぞ」
「細かいことはいいの!私は家電売り場でエアコンを見たい」
「そんなところ行ってもエアコンは買わねえよ。ほら、なんか欲しいもの奢ってあげるから、そこのコンビニでアイスでも買え。ガリガリ君までなら許す」
「それ選択肢一個しかないよね!?」
そう言いつつファミマでガリガリ君を2本買って、1本こちらへ渡して来た。
「別に俺は要らないのに……」
「ええから食べ!あんたエアコンも扇風機もなしでアイスまで食わずに今日乗り切ろうとかそれもう人間ちゃうからな」
「人間は恒温動物だからある程度の温度変化には耐性があるもんだろ?」
「いやその域超えとるから。あんたの身体の細胞熱に強すぎるから……」
とここで、乃愛が誰かを見つけたように黙ってしまった。俺は怪訝そうな表情をしつつ乃愛に尋ねた。
「どうした?なんか変なものでも見たのか?」
「ちゃうちゃう!!ほらあそこ!あそこ!」
「ん?」
「あの電気店の奥!」
そしてそこに見えたのは、赤色の髪の毛だった。燦々と照り注いでいる太陽が、彼女の頭を照らし、皮膚を薄黒くしていた。まだ向こうは、こちらに気づいていないようだった。俺は反射的に立ち上がってしまった。
「どうしたん?友一」
「いやいや、あれ近藤じゃん。今はデパートの外に居るけど、あれそのままここに入ってくるぞ」
「それが?」
「何がそれが?だよ。そんな……」
「なんで逃げようとするん?別にまだ、普通やん。クラスメイトとデパートにいる、それだけやん」
「え?でも……」
「それとも何?私がそばにおるってバレたら、嫌なん?」
乃愛はじっとこちらを見てきた。俺は何も言い返せないで立ち止まってしまった。そして近藤は、何か用事を思い出したかのように反対方向へ向かって行った。
乃愛はさっき見せて冷酷な顔をすっとやめて、
「んじゃ、家電売り場に行こか?」
と俺の服の裾を引っ張ったのだった。




