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4月7日その①

 先にできた弁当を持って、乃愛(のあ)は部屋を出て行こうとしていた。結局これからの昼ご飯問題は何1つとして解決していなかったのだが、とりあえず今日は俺がコンビニでパンを食べる事で誤魔化すらしい。


 彼女の残り香を嗅ぎつつ、少し遅れて俺は出発した。時間をずらすのはいつもの通り。もう申し合わせがなくとも2人は若干の時間をずらすことができていた。


 一歩外へ出ると、同じ高校の知らない女の子。これまではこういう設定だっただけに、同じクラスになった2人がこれからどうなってしまうのか……想像できないけれども、これから直面するのも事実だった。


 自転車置き場に到着した。登校中に彼女に追いつくことはなかった。彼女がうまいこと信号をくぐってくれたお陰だ。


「あーと、新倉(にいくら)君、だっけ?」


 聞こえて来た声に振り返った。自転車置き場で話し掛ける女性なんて、この前の乃愛くらいしか居なかったぞ。この前の……


「同じクラスなんだって?これからよろしくね」


 この前の、乃愛の友人だった。名前は近藤(ちかふじ)だっただろうか。俺はぺこりと頭を下げて、


「よろしく、近藤さん」


 と極めて社交的な挨拶をした。


「そんな、かしこまらなくていいって。同じクラスなんだし!」


 自然な動きで俺の隣を陣取る近藤。しかし自然だったのはここまでだった。自転車の鍵を閉めたと同時にパーソナルスペースへ侵入したくせに、自転車置き場の階段を降りきるまでなんのアクションも起こさなかった。気さくな人かと思ったが、案外寡黙な人間なのかもしれない。俺は未だ掴めぬ近藤像に困惑していた。


 しかしこのまま話を振らないのもなんだ。隣を見て、頬と同じくらい赤い髪の毛を指摘した。


「その髪の毛って、地毛?」


 近藤は一瞬目が点になり、次の瞬間には笑みが溢れていた。


「そんなわけないよ。染めてるのよ」

「そうなんだ。鮮やかな色してるから、地毛なのかと思った」


 大したことのない会話だ。この学校における染髪なんぞ、路傍の石ほども気に留められない。茶色でも金色でも、赤色は少し珍しいが、我が藤ヶ丘高校では普通の存在だった。寧ろ、乃愛のようなザ!高校生な黒髪ロングの方が希少種かもしれない。


「そうかあーじゃあ地毛ってことにしよっかな?」

「なんだそれ」

「いやさ、私野球部のマネやってんだけど、赤いと色々言われるんだよねー」

「牛尾先生から?」

「いやいや、あの人はマネの髪の色とか覚えてすらないよ!他校!他校の監督さん!」

「マジかー」

「教育上良くないんじゃないかって」

「そうやって関係ないことに首を突っ込むこと姿を見せることこそ教育上悪いわ」


 俺の突っ込みで軽い笑いが生まれた。お、案外話が弾んだぞ。気がつけばもう教室だ。


「んじゃ!」


 と手を振り先に教室へ入ろうとする俺に向けて、近藤は一言こう添えた。


「うん、これからよろしくね!」

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