6月24日その②
「そ、そんなに大声出さなくてもいいじゃないか……」
はあはあと息を整える乃愛に対して、俺は多少ビビりながら様子を窺っていた。
「あ……ごめん。ちょっとやり過ぎた……けど!風鈴なんかでごまかせるか!!つうかあんたそれ、去年も同じことしたよな?」
「去年耐えられたんなら、今年も耐えられる。道理だ」
「だ!か!ら!今年は去年より暑いんやて!!それに去年も耐えきれんくて結局デパート連打しまくっとったやん!忘れたとは言わせへんで!」
とここで、だんだんとドアを叩かれてしまった。いわゆる壁ドンである。由緒ある正しい意味での壁ドンである。すんっと静かになった2人。
「そういや、隣の人受験生だったな」
「これからは静かにせんと、怒られてまうな」
「とにかくさ」
俺は手に握りしめていた風鈴を卓袱台の上に置くと、すっと立ち上がった。
「とりあえず、外出るか」
そうして2人、部屋を出ることにしたのだった。行き先はどこかって?決まっているじゃないか。部屋にクーラーがないのであれば、クーラーのある空間に行けばいい。しかし個人商店や喫茶店、ファミレスなどは何かを購入したり注文したりする意思を見せないと入店許可が下りない。ただで空調が効いていて、なんなら(俺は買う気などないが)扇風機やエアコンを購入できるかもしれない桃源郷のような施設。
そう、デパートである。
槻山市は駅前に3つのデパートがあり、それぞれがしのぎを削っている。当事者からしたら死活問題だが、利用者である我々からしたら便利なことこの上なかった。その中でも、JRの線路を超えたところにあるデパート、アルファ。
「暑いー」
ただそこに行くまで徒歩なら20分以上かかる。だからと言って自転車なら駐輪場代がかかってしまう。最近は路上駐輪にも厳しい時代だからその辺に置いておくこともできない。100円を笑うものは100円に泣くし、撤去のおじさんを笑う者は引き取りの労力と過料に泣くのだ。というわけで俺たちは、徒歩でここまできた。
「ほら入り口だぞ、乃愛」
「はやくー!アイスー!」
「んなもん買えるか!大体旅行代捻出したいからって節制生活のススメを発表したのはお前の方だろ」
「それはそれこれはこれってやつー!それに、多少使っても大したことならんって。また具なしカレーとか鶏がらスープの朝ごはんとかすれば……」
「もう2度としたくねえよそんなご飯」
そんな話をしながら、先に自動ドアを踏んだのは乃愛だった。そしてその瞬間に、身体中へ冷気が流れ込んできた。




