6月24日その①
事の発端は今年初めての熱帯夜だった。
「なあ友一?」
「ん?」
「クーラー買わへん?」
そう聞いて来た乃愛の提案に対して、俺が数刻待った後に鼻で笑って拒否してしまったのが全てであった。
「なんでそんな拒否するねんあんた!!普通の提案やろ?」
「お前この家にそんな金あるのでも思ってんのか??」
「思ってないから節約して導入しようと言っとるんやんか。今のこの気温考えてみ?エアコンは必須家電やで。昨日の夜、何度やったか知っとるか?」
「たかが31度やろ?人間の平熱より5度も低い」
「何基準にしとるんやあんたは!!普通に冷静に一般常識として考えてみ?夜太陽が出てないのに31度もあったらそりゃ寝にくいやろ?現にあんた、昨日掛け布団吹き飛ばして寝とったやんか」
「それはそれ、これはこれだ。実際あの後はしっかり睡眠できたし、ノープロブレム」
「イェスプロブレムや!私は昨日死ぬほど寝づらくて、結局日が昇るまでほとんど寝れんかったんや!そもそもさあ」
乃愛はビシッと物置を指差しつつ訴えて来た。
「何でこの家には扇風機すらないねん!!」
俺はそれを、まるで赤子のわがままを見つめるような慈悲深い顔で対応した。
「そりゃお前、要らねえからだろ」
「要らん!?!?」
「暑さは布団で調整すれば良いだろ。本当に暑かったら何もかけないで寝ればいい。そうしたら自然と眠れる。これぞ真理であり、風流」
「何が風流やロマンの一欠片も存在しとらんのに!!去年も同じこと言っとったけど、今年は去年なんか遥かに上回る厳しい夏が来とるんやで!!このままやったら私、干からびてまうわ!ほんま、エアコンを導入して」
「無理、高い」
「んじゃ、扇風機」
「無理、高い」
「いや扇風機はそこまで高ないやろ!!」
「中古で2000円から3000円の世界だぞ?高いだろ。今の財政状況でそれだけのお金捻出するのにどれだけかかると思ってるんだ?」
睨み合う2人。どちらが正論を言っているのかは皆様の判断に任せるとするが、俺としては不要なものにお金を使うわけにはいかなかった。
「友一、前に言ったよね?私は高卒公務員目指すって」
突然、彼女はしおらしくなって訴え始めた。
「高卒公務員の試験ってな、9月にあるねん。普通の大学入試と違って試験日程が早いからな、今の時期から少しずつ勉強していきたいねん。でもな、こんな暑い日やと集中力も削がれてしまうねんな。だからな、私の将来のためにも……」
「……そうか、わかった……」
え?え?と言う期待の眼差しを受けつつ、俺が取り出したものは……
「え?友一これ……」
「風鈴だ。これを窓につけることによってヒーリング効果……」
「もういやや!再考を所望する!!」
部屋中に、乃愛の悲鳴が轟いたのだった。




