6月20日その⑤
「ほら、さっさと部屋の外に出?」
そう促され電話に出つつドアを開けた自分に対して、乃愛は鋭い言葉を背中にぶっさした。
「It's a sin to tell a lie だよ。嘘だけはつかないであげてね」
この時の自分は、まーた気取ったこと言いたがってるんだなと呆れていた。こういう、何気ない所に感情を乗っける彼女の手法は、鈍い俺じゃなくても分かりづらい。
通話ボタンを押した頃には、少し湿気の多い外気温に汗を誘発されられていた。
「もしもし」
「こんばんは!新倉君!何してた?」
「バイトから帰って来た所」
「そうなんだ!お疲れ様!」
近藤は比較的明るい声で労いの言葉をかけていた。ここにいたら、乃愛がシャワーを浴びにいき辛いなと思い、俺は階段を降りながら要件を聞いた。
「で?何かあった?」
まあどんな要件かは、乃愛から先に聞いているんだけど……
「あ、あ、あのさ!」
と言われてしばらく経っても、返答がこなかった。実質的には数秒でも、体感は数十秒待った気分だった。
「ん?どうした?」
「あのさ!8月の22、23日って開いてる?」
うーん、別に開いているが…
「開いてるけど?」
「そこの2日間、甲子園も終わって完全フリーなんだ!だからさ、どっか遊びに行かない!?あ、勿論他の子も誘ってるけど…バイト忙しい?」
言葉の節々に相手の口の渇きが存分にわかった。
「別に。今からなら休み取れるし」
「ほんと!?」
「ちなみに誰誘う予定なの?」
急な逆質問に、少しだけ間を空けてから近藤は答えた。
「えーと、とりあえず乃愛ちゃんと遠坂君とのどかちゃんには声かけてるよ」
「いつものメンツだな」
「そうでしょ?他に呼びたい人いる?良かったら声かけるけど」
うーん、あまりピンと来なかった。
「特に大丈夫かな?俺も予定としては開いてるけど、どこに行く予定?それ次第かなあ」
お金の問題があるからな。こちらには泣きついたらお金をくれるそんな存在は皆無だ。自らの貯金を切り崩していかないと旅行のひとつも行けやしない。
「実はまだ決まってなくてね…これから相談かなあ」
「んじゃ5人で集まって相談する?」
「うん、じゃあその方向で!」
「りょーかい、んじゃな」
「え……あっ………バイバイ!」
そして電話を切って、部屋の方を見た。思わせぶりなことを言っていたくせに、大した話はなかった。やはりカッコつけたかっただけなのだろう。俺ははああとため息をつきつつ、ドアを開けた。
「あ、おかえりー」
乃愛はいつも以上ににこやかに、そしていつも以上にだらけて、机に頬をつけていたのだった。




