表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/365

6月20日その⑤

「ほら、さっさと部屋の外に()?」


 そう促され電話に出つつドアを開けた自分に対して、乃愛(のあ)は鋭い言葉を背中にぶっさした。


「It's a sin to tell a lie だよ。嘘だけはつかないであげてね」


 この時の自分は、まーた気取ったこと言いたがってるんだなと呆れていた。こういう、何気ない所に感情を乗っける彼女の手法は、鈍い俺じゃなくても分かりづらい。


 通話ボタンを押した頃には、少し湿気の多い外気温に汗を誘発されられていた。


「もしもし」

「こんばんは!新倉(にいくら)君!何してた?」

「バイトから帰って来た所」

「そうなんだ!お疲れ様!」


 近藤(ちかふじ)は比較的明るい声で労いの言葉をかけていた。ここにいたら、乃愛がシャワーを浴びにいき辛いなと思い、俺は階段を降りながら要件を聞いた。


「で?何かあった?」


 まあどんな要件かは、乃愛から先に聞いているんだけど……


「あ、あ、あのさ!」


 と言われてしばらく経っても、返答がこなかった。実質的には数秒でも、体感は数十秒待った気分だった。


「ん?どうした?」

「あのさ!8月の22、23日って開いてる?」


 うーん、別に開いているが…


「開いてるけど?」

「そこの2日間、甲子園も終わって完全フリーなんだ!だからさ、どっか遊びに行かない!?あ、勿論他の子も誘ってるけど…バイト忙しい?」


 言葉の節々に相手の口の渇きが存分にわかった。


「別に。今からなら休み取れるし」

「ほんと!?」

「ちなみに誰誘う予定なの?」


 急な逆質問に、少しだけ間を空けてから近藤は答えた。


「えーと、とりあえず乃愛ちゃんと遠坂(えんさか)君とのどかちゃんには声かけてるよ」

「いつものメンツだな」

「そうでしょ?他に呼びたい人いる?良かったら声かけるけど」


 うーん、あまりピンと来なかった。

 

「特に大丈夫かな?俺も予定としては開いてるけど、どこに行く予定?それ次第かなあ」


 お金の問題があるからな。こちらには泣きついたらお金をくれるそんな存在は皆無だ。自らの貯金を切り崩していかないと旅行のひとつも行けやしない。


「実はまだ決まってなくてね…これから相談かなあ」

「んじゃ5人で集まって相談する?」

「うん、じゃあその方向で!」

「りょーかい、んじゃな」

「え……あっ………バイバイ!」


 そして電話を切って、部屋の方を見た。思わせぶりなことを言っていたくせに、大した話はなかった。やはりカッコつけたかっただけなのだろう。俺ははああとため息をつきつつ、ドアを開けた。


「あ、おかえりー」


 乃愛はいつも以上ににこやかに、そしていつも以上にだらけて、机に頬をつけていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ