6月20日その④
「うん……うん……そうだよ!うん……うん……」
電話をしているようだったから、ドアを開けるのを躊躇った俺に対して、数刻すると向こう側からドアが開いた。乃愛がスマホを耳元に当てつつ反対の手でこちらへ手招きしていた。そして俺が部屋に入ると同時に、スリッパを履いて外へ出た。その時の乃愛の服は水色のボーダーが入った安物薄手のタンクトップだった。いくら夏の直前といえど寒いのではないかと思って、彼女が愛用していたパーカーを持って外に出て、投げつけるように渡してまた部屋に戻った。
誰からの電話なのだろう。少しだけ胸がキュッとなりつつも、ここ数日の残り物晩御飯を食べ始めた。何かの責任を感じたのか、昨日の炒め物は台所から姿を消していた。少し、やり過ぎてしまったかもしれない。俺は刹那反省しつつ、具なしのカレーをご飯にかけていた。
座ると紙がくしゃっとなる音がした。ポケットに手を伸ばすと、行動計画表が入っていた。あーこれ適当に折ってポケットに入れていたのか。その雑な管理に我ながら呆れつつ、それをぼーっと見ながらご飯を食べていた。
「友一おかえり!ご飯わかった?パーカーありがとうな!」
ドアを開けると同時に元気ハツラツな声が部屋中に響いた。
「んー?それなに?」
「行動計画表。夏休みの日程を書けってさ」
カレーご飯をもぐもぐと食べつつ、ミニサイズの煮魚へ手を出していた。その間も、乃愛は話し続けていた。
「へー!バイトの?友一、去年もこんなん書いとったんやな。今年はなんて書くん?」
「去年と同じく、空欄だな」
「……悲しいなあ」
「別に?お盆だろうが入れる柔軟な対応こそ俺の長所よ」
「それ、単に他することないからやろ?ほんま……」
乃愛はそう言いつつ、いつものように対面に座して水を飲み始めていた。
「そういう乃愛はさ」
「ん?」
「さっきの電話、誰から?」
「ちかちゃんから、夏休みどっか行かないって」
淀みなく答えたから、嘘ではないのだろう。そんな風に思考が流れてしまうのは、俺が簡単に嘘をつける人間になってしまったせいだ。
「野球部マネがどっか行くとか出来るんかねえ」
「2日くらいなら開けとるらしいで」
「1泊2日なあ」
「どうしたん?」
「いや、結構するんだろうなあって。金額的に」
「せやなあ。長スパとか白浜とか上がっとったけど、お金かかるよなあ…」
ぬーといいつつ腕を組む乃愛は、ふとじっとこちらを見て来た。
「どうした?」
「いや、そろそろちゃうかなって」
「なにが?」
「あんたに電話掛かってくんの」
どんぴしゃだった。スマホが長いバイブ音を鳴らしたかと思ったら、近藤憐からの着信を訴えて始めたのだった。




