6月20日その③
「あー新倉と塚原。ちょっとこっち来てくれ」
塚原真琴とそろそろバイトに入ろうかと準備をしていた時に、店長は我々を手招きして来た。何も考えずに2人、店長部屋に入っていった。
「これ、今月末までに書いてくれないか?」
そう言って渡して来たA4の書類のタイトルには、夏の行動計画表と書いてあった。そしてその下には、7月21日から8月31日までのカレンダーが並んでいた。
「何ですかこれ?」
「これには今年の夏休みの予定を書いて欲しい。いつ遊びにいくとか、いつ帰省するとかをな。特に旅行とかは早めにダメな日程教えてくれないと、いつもみたく2週間前なら対応ができない場合もあるだろうからな。と言うか塚原、書いたことなかったか?」
「私がここに入ったの、ちょうど夏休み終わった直後でしたよ」
「あーそれじゃあ書いてないな。新倉はどうだ?書いたことあったか?」
俺はこくんと首を縦に振った。
「んじゃま、よろしく頼む。そこに書かれた日程はなるべく考慮するが、もしかしたら早めに日程の変更をお願いする場合もあるから、その辺は了承してくれ」
「わかりました」
「はい!」
そうして2人お辞儀をして、さっと店長部屋から出ていった。夏の行動計画表、確か何も書かずに出した記憶がある。そのため実際、お盆の頃は毎日のようにバイトに入り、故郷の祖父祖母と再会を楽しむ他従業員の犠牲となっていたのだ。もちろん店長も一緒である。飲食業、と言うかサービス業はみんなが休めるタイミングで休むことができない不利益があるのだなと実感した記憶があった。
我々は更衣室に戻って5時になるのを待っていた。念のため補足しておくが、我々のバイト先は更衣室が男女共用だ。意味がわからないと指摘を受けそうだが、部屋に試着室のようにカーテンで仕切るスペースが2人あり、そこを用いて男女とも着替えているのだ。なのでバイト前は、男女ともに同じ狭い部屋で待つのが通例だった。
「えーっと……うーんっと……」
塚原真琴は早速行動計画表に取り掛かっている様子だった。派手に装飾されたピンク色のスマホで予定を確認しつつ、もう早書き込みを始めていた。
「先輩、もしかして書くことないんですかー?これ」
今日は久しぶりの小悪魔後輩真琴ちゃんだ。俺は眉一つ動かさずに答えた。
「まあ去年も何も書かずに出したからな」
「え?名前だけ変えてですかー?」
「そうなるな」
「寂しーい!1個くらい書きましょうよーせんぱーい」
そんな煽りは空虚に響いた。その虚しさを塚原真琴も理解しているようで、さっと黙りこくってしまった。そして帰省と部活の合宿とライブの予定を書き込むと、のびーっとしてからため息をついていたのだった。




