6月20日その②
座学ばかりが重視される日本の高校教育において、自主的思考力たるものを身につけるための授業がある。こちらではその授業名を総合と呼ぶのだ。
この日の話題は『日本らしさとは』だった。ポジティブな面とネガティブな面の両方が必要とのことだったので、遠坂のうんちくや近藤の率直な感想などを織り交ぜながら短い発表原稿を完成させた。そしてそれを乃愛に発表を託すと、少しだけ時間が余っていた。
そうなると当然、こんな話題が出るのは必定であろう。
「なあ、新倉」
ぶっきらぼうに遠坂が尋ねてきた。あまりにも唐突だったので、まだグループワークの延長線上なのかと錯覚してしまうほどだった。
「海と山、どっちが好きだ?」
向かい合わせになった机配置の中で、目の前にいる俺に投げかけているにしては少し上の空な雰囲気で尋ねてきていた。
「それはこの議題関係あんの?」
「いや、個人的な興味…」
「私は海かなー?海っていうか、花火?ほら、山って花火見れないじゃん」
そしてそれに、俺の隣に座っていた乃愛が乱入してきた。
「会長は花火見たいんだ」
「うん!お祭りで見るのも乙だけど、遠くで轟いている花火を耳元すませて聴くのも結構好きかな?」
あー確かに乃愛はそういうの好きである。基本的に空にある何某が好きな人間だ。雲とか星とか月とか太陽とか。それが人工物でも構わないようで、かつては飛行機見つけただけでもはしゃいでいたくらいだ。
「俺は山かなー」
そう答えたのは新河だった。
「キャンプしたいからさ。ほら、海でキャンプって聞かないだろ?」
「まあ砂浜に泊まり込んでる人はいないね」
海派の乃愛もそれに同意していた。
「キャンプよく行くのか?」
「まあねー。夏は一回、家族ぐるみで行ってるな」
この家族ぐるみがどの子と家族ぐるみなのか、俺と遠坂はわかっていたから黙っていた。
「新倉君は、どっち派?」
そしてここまで黙りこくっていた近藤によってお鉢がこちらに回ってきた。俺は答えに窮していた。もう改めて説明するまでもないが、花火もキャンプもさして興味がないし、そんな経験もないのだから。
「特にない感じか?」
「そう!そんな感じ」
そして遠坂の助け舟に全ノリした。
「拘りはないかな……あーでも強いて言うなら涼しい所がいいから山かも」
「1番涼しいのは自宅だぞ」
「確かに」
あはははははと笑い話になった所で、ディスカッションの時間が終わった。発表の時間に移っていく中で、俺はふと、近藤と遠坂はどっち派なんだろうと疑問に思ってしまった。遠坂なんて話振った側の人間なんだから、自分の意見も述べろよ。なんて思ったのも一瞬で、すぐにクラスメイトの奇抜な発表に注意を向けたのだった。




