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4月6日その⑤

 家族、確かにそうなのだろう。何一つ血の繋がっていない2人だが、同じ6畳間で暮らしているのだから家族といっても差支えがないだろう。その割りには胸がつっかえる。心の底で誰かがそれは違うと指摘している。じゃあなんだ?どんな関係なんだ?と言われたら、答えられはしないのだが。


 仕事終わりにスマホを見ていたら、目敏く店長が声を掛けてきた。


「顔がにやけてるぞ」

「にやけてないです」


 スマホの電源を切って、シフトを確認し始めた。シフトは毎週木曜日の昼間に、次週の月曜日から日曜日までのものが張り出される。もう着替え終わっていた俺は、少し上がった口角を下げるようにもう一度シフトを確認し始めていた。


「というか店長、おりなくていいんですか?もう6時ですよ?」

「お前がちゃんと仕事してたからもう品出しくらいしかすることないんだって」


 まるで嫌味を言うようなトーンだが、内容は確実に褒められていた。まあ、実際は客がいつもよりも少なかったから仕事が捗ったんだけどな。柱本さんも家族からの電話だと言ったら興味を無くしたように軽い世間話しかしなくなったし。


「たけのこのアク抜きも完璧だったしな」

「ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げつつ、カバンを持った。帰宅の時間だ。


「来週も週5で出しているが、いけるのか?学校も始まるのに」

「俺としては週6でもいいんですけどね。後深夜労働も」

「そんなの、バレたら俺の職がなくなんぞ」


 ガハハと笑う店長、彼なりの労いであり、気遣いなのだろう。もらって嫌なものではない。


「それに、GWは迷惑かけますしね」

「あーあれか。言っても3日休むだけだろ?むしろもっと休んでもいいんだぞ?」

「充分ですよ」


 そして更衣室を出て、従業員用出口へと向かっていった。その途中にいる店長に、


「お疲れ様でした」


 と頭を下げるのも忘れなかった。間の抜けた『お疲れ様ー』を聞きながら、俺はバイト先を出発した。


 ペダルが軽かった。向かい風が追い風に思えた。やはり、心の中では少し嬉しかったのだろう。


 俺は未熟だ。感情を把握するのが鈍いのだ。実感するまで自身の感情が理解できないのだ。そんな自分が本来忌まわしいのだが、この日はそんなことにすら頓着しなかった。


 自転車置き場を見ただけで、更にペダルが軽くなった。階段を、いつも以上に調子よく登った。ドアノブを、目一杯力強く握った。


『やっぱ友一とご飯食べたいなって思ったから、うどん作って待っとるね!!』


 乃愛のあの連絡を思い出して、またニヤついてしまいそうになった。それでも頬をパシッと叩いて気合を入れ、声もいつも通りの気だるい声に抑えた。


「ただいまー」


 彼女は調理用にと一つくくりにした後ろ髪を跳ねさせて、こちらを振り返りニコッと笑った。


「おかえり!ほら、LINEでうてたうどんの玉しっかりうてきたよ!!これに余ってた卵とほうれん草入れて食べよ?」


 その笑顔が眩しすぎて、俺は少し視線を下に落としながらこくんと頷いたのだった。

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