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6月20日その①

 さてその次の日である。うちのクラスは今日とて大変な賑わいを見せていた。期末テストの点数で上回った方が女を奪う骨肉の争いとか、あまりに色々がっつき過ぎて女側が愛想尽かした話とか、夜中に抜け出して他校の男子に会いに行った女生徒の話とか……詳細は割愛させていただくが、まあ要するにいつも通りということだった。


「今日も相変わらず騒がしいな」

「そうなー」


 遠坂(えんさか)のぼやきに同調した新河(しんかい)、俺も同意の首振りをした。


「まあ夏が近いからなー」

「新河は何か予定あるのか?」


 自然な流れで夏の予定を聞く遠坂。こういう所を乃愛(のあ)には見習って欲しかった。こいつならキザな言葉とか使ったり……いやしてもおかしくないかもだな。


「俺?基本部活で、余った時間彼女に充てる感じ?」

「小学校からの付き合いだったら、もうデートスポット行き尽くしたんじゃね?」


 俺は少し皮肉を込めて言ったが、新河はガチャピンみたいな眼を何一つ濁さず答えた。


「まあ徐々に広がってはいるな。今年は伊勢に行くし」

「日帰りか?」

「勿論。泊まるときは親同伴よ。そこまで許してくれないからなあ」


 そうぼやきつつ、新河は180mlパックの野菜ジュースをジュージューと飲んでいた。


「そういうお前らはなんかあんの?」

「なんもない」

「同じく」


 2人揃ってこの返答である。しかしここで乃愛みたいなめんどくさい絡みをしてこないのが新河のいい所だ。


「ふーん」


 質問主なのにこの返し。こういうサバサバしたところは、個人的に心地良かった。


「……バンド来ても良いんだよ……」


 あえて小声で聞こえて来た声に、俺はビクッとなった。振り返るとそこにいたのは、髪の毛を金髪と茶髪の間くらいの色合いに染め直した武田だった。


「もうその件は断っただろ?」

「い、いや……まあ……そうだけど……?」


 武田は口元にホイップクリームの残骸をつけたまま、視線を合わせず話していた。


「にいくら次いつピアノ弾くのー?」


 武田の後ろからひょこっと古森(ふるもり)が出てきてまた無神経に話しかけてきた。相変わらずスカートが異常に短く、内腿がほとんど露わになっていた。


「来年の5月」

「待てるか!良いから文化祭で弾けよー聞きに行くからー!」

「気が乗らないな」

「はー?私だったらそんだけ上手けりゃ幾らでも弾きまくるってのに」


 お前と一緒にするなと言いたくなったが、まあ古森の言い分も理解はできるからぐっと我慢した。


「ちょっと……采花ちゃん……」

「ん?良いじゃん別に。悪いことなんてしてないし」

「そ……そうかもだけど…」

「まあでも、何の犠牲もなしに見返りを求めるのは難しいよねー」


 古森の後ろから現田(げんだ)がひょっこり現れた。優に10個を越すパンを抱えていた。


「はな!こいつの恥ずかしい過去暴いて無理やり舞台に立たせようぜ」

「あーん、それ楽しそうー」

「ちょっと……そういうの、良くないと思うよ?」

「えー?別に悪いことしてるわけじゃないし」

「いや流石に脅迫は悪いことだろ」


 耐えきれずに突っ込んでしまった。笑い出した3人を見て、遠坂が少し眼光を鋭くした気がした。気のせいかもしれないが。

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